私を、好きでいてくれた人
「これっ」
「え…?」
「前のページの公式で解いたらいいよ」
「あ…あー…サンキュ、さすが頭いいな?」
「そんなことないよ、普通だよ」
そういう謙遜するところも好きだ…。
教科書のページをめくって、公式を指でなぞる早瀬の白い指も…
このままその手を掴んでしまいたくて、自分の左手が少し浮いた時、再び教室の扉が開いた。
少しビクッとして振り向くと、そこにいたのは古田だった。
「小林っ?まだ…かかりそう?」
「古田おまえ…帰ったんじゃ?」
「みんな下で待ってるんだよ、駅前のハンバーガー食いに行こうって話になってさ」
「あー…分かった、もう終わる」
「おぅ、じゃぁ下で待ってる」
「おうよ…」
そして古田は扉を閉めて、教室前を通り過ぎて行った。
俺は、ハッとして目の前の早瀬を見ると、早瀬は教科書ではなく、通り過ぎて行った古田の方を見ていた。