にじいろの向こう側
.
「…別にお洒落な所じゃなくてもいいわけでしょ?瑞稀が行きたいのは。」
明らかにオロオロし出した私を見かねて、圭介さんが口を開いた。
「あ~…お洒落とか俺は良くわかんないし。咲月が美味いって思う所ならどこでもいいよ?」
そ、それにしたって…。
「大丈夫だよ、咲月ちゃん。瑞稀、学食のハンバーグ定食、超がつく程好きで、毎日のように食ってたから。以外と舌は庶民派じゃない?
まあ…『波田さんのと違う』って毎回言って、毎回涼太君に『なら食うなよ』って突っ込まれてたけど。」
「それと、カレーね」
「あ~!懐かしいな~…おばちゃんがよそってくれる、採算度外視のルー大盛りカレー!」
「あれ、半端無い量だったよね。」
そ、そうなんだ…。
ま、まあ学食の味なども知ってらっしゃるならば…行ける所はあるかな?
「あの…来週までに考えておきます」
盛上がってる二人にそう告げたら「うん、楽しみにしてる」とまた頭を瑞稀様に撫でられた。
…とは言ったものの。
どこにお連れしようか考えながら過ごした一週間はあっという間に過ぎて
すぐに迎えてしまった当日。
おまけに、「一日休みが取れたから、咲月が好きな所、どっか連れてって」と瑞稀様に言われて。
焦って圭介さんを見たら、面白そうな顔をして「や、俺、デートに付いてく趣味ねーから」とバッサリ。
み、瑞稀様と二人で…どこか。
色々考えたけれど、デートっぽい所ってあまり分からなくて
こうなったら本当に『行きたい所』に行こうと腹をくくるしかないなと思った。
.
坂本さんに『頑張って!』と言われて送り出された当日。
大きめのリュックを背負って現れた私に、玄関で待ってた瑞稀様が眉を下げた。
「俺、山登りは苦手だけど」
「…私の行きたい所に行ってくれる事になってたはずです。」
いつも整えている前髪が全部真っすぐ降りてて、パーカーにロンTでGパンにスニーカー。そんな瑞稀様の出で立ち。
この前と全く真逆な雰囲気…
これだけラフな格好してるとだいぶ幼く見える。
「いってらっしゃいませ」
丁寧に頭を下げる圭介さんはいつもと同じ。
「圭介、いつでも救援隊呼べる様にしておいて。」
「っ!だ、大丈夫ですよ…ほら!」
手首をグイッと持って引っ張ったら「あ~はいはい。」ってダルそうに着いて来る。
「み、瑞稀様。」
「ちゃんと来てるだろ。」
むっと口を尖らせた私を楽しそうに笑って「ほら、荷物貸して」って代わりに肩にかけた。
「重っ!これ何入ってんの?」
「内緒です。」
スタスタと歩く私の手をキュッと握る。
「咲月。」
「はい」
「今日は電車だし、公共の場が主だから『瑞稀様』はなしだよ」
そ、そっか…。
門を出た所でぴたりと思わず足を止め、瑞稀様を見た。それに答えるように口角をキュッとあげ微笑む瑞稀様。
「…み、瑞…」
「うん。続きは?」
「み、瑞稀…」
ドキドキと鼓動が早くなる。
「…瑞稀、さん…。」
「全然ダメ。辿々しい。」
そ、そこは許して頂きたいんですが…。メイドとして、瑞稀様と一緒にいる時間もだいぶ長くあるわけで。
お付き合いさせていただいていても、そこは『瑞稀様』とお呼びさせていただいているわけですし…。
まあでも…いいか。
含み笑いしてる瑞稀様が、なんか楽しそうだから。
「咲月、登山の途中で倒れたら、おんぶしてよ。」
「お任せ下さい。」
「や…そこはさ…否定して欲しいんですけど。」
繋いだ手が握り直されて指が絡む。
それに凄く幸せを感じた。
…楽しいと思って下さるといいな、今日。
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「…別にお洒落な所じゃなくてもいいわけでしょ?瑞稀が行きたいのは。」
明らかにオロオロし出した私を見かねて、圭介さんが口を開いた。
「あ~…お洒落とか俺は良くわかんないし。咲月が美味いって思う所ならどこでもいいよ?」
そ、それにしたって…。
「大丈夫だよ、咲月ちゃん。瑞稀、学食のハンバーグ定食、超がつく程好きで、毎日のように食ってたから。以外と舌は庶民派じゃない?
まあ…『波田さんのと違う』って毎回言って、毎回涼太君に『なら食うなよ』って突っ込まれてたけど。」
「それと、カレーね」
「あ~!懐かしいな~…おばちゃんがよそってくれる、採算度外視のルー大盛りカレー!」
「あれ、半端無い量だったよね。」
そ、そうなんだ…。
ま、まあ学食の味なども知ってらっしゃるならば…行ける所はあるかな?
「あの…来週までに考えておきます」
盛上がってる二人にそう告げたら「うん、楽しみにしてる」とまた頭を瑞稀様に撫でられた。
…とは言ったものの。
どこにお連れしようか考えながら過ごした一週間はあっという間に過ぎて
すぐに迎えてしまった当日。
おまけに、「一日休みが取れたから、咲月が好きな所、どっか連れてって」と瑞稀様に言われて。
焦って圭介さんを見たら、面白そうな顔をして「や、俺、デートに付いてく趣味ねーから」とバッサリ。
み、瑞稀様と二人で…どこか。
色々考えたけれど、デートっぽい所ってあまり分からなくて
こうなったら本当に『行きたい所』に行こうと腹をくくるしかないなと思った。
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坂本さんに『頑張って!』と言われて送り出された当日。
大きめのリュックを背負って現れた私に、玄関で待ってた瑞稀様が眉を下げた。
「俺、山登りは苦手だけど」
「…私の行きたい所に行ってくれる事になってたはずです。」
いつも整えている前髪が全部真っすぐ降りてて、パーカーにロンTでGパンにスニーカー。そんな瑞稀様の出で立ち。
この前と全く真逆な雰囲気…
これだけラフな格好してるとだいぶ幼く見える。
「いってらっしゃいませ」
丁寧に頭を下げる圭介さんはいつもと同じ。
「圭介、いつでも救援隊呼べる様にしておいて。」
「っ!だ、大丈夫ですよ…ほら!」
手首をグイッと持って引っ張ったら「あ~はいはい。」ってダルそうに着いて来る。
「み、瑞稀様。」
「ちゃんと来てるだろ。」
むっと口を尖らせた私を楽しそうに笑って「ほら、荷物貸して」って代わりに肩にかけた。
「重っ!これ何入ってんの?」
「内緒です。」
スタスタと歩く私の手をキュッと握る。
「咲月。」
「はい」
「今日は電車だし、公共の場が主だから『瑞稀様』はなしだよ」
そ、そっか…。
門を出た所でぴたりと思わず足を止め、瑞稀様を見た。それに答えるように口角をキュッとあげ微笑む瑞稀様。
「…み、瑞…」
「うん。続きは?」
「み、瑞稀…」
ドキドキと鼓動が早くなる。
「…瑞稀、さん…。」
「全然ダメ。辿々しい。」
そ、そこは許して頂きたいんですが…。メイドとして、瑞稀様と一緒にいる時間もだいぶ長くあるわけで。
お付き合いさせていただいていても、そこは『瑞稀様』とお呼びさせていただいているわけですし…。
まあでも…いいか。
含み笑いしてる瑞稀様が、なんか楽しそうだから。
「咲月、登山の途中で倒れたら、おんぶしてよ。」
「お任せ下さい。」
「や…そこはさ…否定して欲しいんですけど。」
繋いだ手が握り直されて指が絡む。
それに凄く幸せを感じた。
…楽しいと思って下さるといいな、今日。
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