にじいろの向こう側




「咲月さん、そっちのハンバーグも食べるから、よそって。」

「……。」


…本当に手加減してくれなかった。



なんだかんだ、フリスビーで2度対戦して2度負けて、その後に、泣きの一回でインディアカをやったけれど。


「じゃあ…次負けたら、3回言う事聞いてよ」と言われて承諾して


…そして、負けた。


そして、レジャーシートに戻って来て、波田さんに教わって作って来たお弁当を見せたら「俺が全部食べる」と言い出した。


「や、あの…私…。」
「あれ?咲月、食べるの?負けたのに?」
「……。」


…普段は『大丈夫?』って位小食なクセに。



体育座りして落ち込んでる私にポンって掌が乗っかる。


こ、これはもしかして、『まあ許してあげますよ』とか『咲月も食えば?』とか…。


期待を込めて顔をあげたら、キュッと口角をあげた。


「後二つ何してもらおっかな。」


…ないか、無いね。
情けは人の為ならず、自分の為にもならずだよね


美味しそうにハンバーグを頬張ってる瑞稀様を横目で睨みながらポットからお茶をカップに注いだ。


「ん、ありがと。」


それを受け取るとニッコリ笑う瑞稀様


…前髪下がってて、いつもより幼くて可愛いって思ったけど、撤回です。


「咲月、美味い。」
「…ありがとうございます」
「もっと喜んでよ。『美味しい』つってんだからさ。」


そんなに面白そうに笑ってなきゃ喜びます。








「…でも、こう言う所で昼飯食べたのなんて、何年ぶりだろ。」

「そうなんですか?」

「うん。大学ん時に何度かあったかな…庭とかで食べたり、ピクニックに行ったり。」

「圭介さんと涼太さんとですか?」


3人のやり取りを想像して含み笑いしながら、そう聞いたら瑞稀様が口に入れようとした海老フライをお皿に戻す。


「…聞いたの?」


……え?
“聞いた”…?


大学時代のピクニックの話を?圭介さんや涼太さんに?


「えっと…特には。お三人が仲良しなので、ちょっと楽しそうだなって想像してしまっただけで…。」


躊躇したら、瑞稀様は少し困った様に笑う。


「…咲月はここに良く来てたの?」

「は、はい。時々は…お墓参りも兼ねて。」

「ふ~ん…。」


少し顔を俯かせ、お茶を一口渋い顔で口に含んだ。


「…智樹さんは一度も来てません。いつもお母さんと二人でしたから。」
「別に聞いてないけど」


今度は眉を下げて笑っている。


「そっか、でも、来た事無いんだ『智樹さん』」


「ふ~ん。そうなんだ…」とまたお茶を飲む瑞稀様が不意にこちらに少し体を向けた。


「咲月『あ』ってして!」
「えっ?!“あ”?」


促されて『あ』の口を開けたら


「おりゃっ」
「っ?!んんっ!」


スポっとそこに海老フライを突っ込まれる。


「あ、食べた!じゃあ…言う事聞くの一つ増しね?」
「んーっ!んーっ!」


海老フライに口を塞がれて、抗議出来ない私を瑞稀様は楽しそうに笑う。
そのまま「ん~!」と伸びをしてひっくりかえった。


「あ~…すごい良い天気。眠くなって来た。咲月、膝貸して。」


そのまま私の太腿に頭をのっけて目を瞑る。


「…これで後二回です。」
「ん~…。」


曖昧な返事をしたまま、キャップで顔を隠した。



『…聞いたの?』


瑞稀様…何が言いたかったのだろう。


吐き出した溜息が何となく重たくて、何となく見上げた空。
強めに吹いて来た風が足早に雲を運び、その姿を変化させていった。







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