にじいろの向こう側
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『咲月ちゃん、悪ぃんだけど、小夜子さんの部屋に夜の仕度、行って貰える?』
圭介さんと波田さんに頼まれた買い物を終えて、帰って来た夕飯の片付けを終えた頃、圭介さんから入ったメッセージ。
『悪いんだけど』…か。
完全に気を遣わせてしまってるな。
ただでさえ、圭介さんは忙しいのに…。
スマホを見ながらふうって溜息をついたら
「咲月ちゃん、大丈夫?」
坂本さんが横から覗き込んだ。
「あ…はい。大丈夫です。私、小夜子さんに夜の仕度を手伝う様に言われたので行ってきます。」
なるべく明るくそう返したら、坂本さんが何か言いたげに苦笑い。
その後ろから、波田さんがハハッて代わりに声を出した。
「坂本さん、まるで母親だな」
「いやねえ…姉って言ってよ、波田さん!それに波田さんだって、わざわざ沢山のお遣いを咲月ちゃんに頼んでたじゃない。」
「それは…ほら、屋敷の外に出て、気分転換するのも必要だろ?たまには。」
二人のやり取りに小首を傾げたら、二人して含み笑い。
「咲月ちゃん?今日は小夜子さんに初めて会ったわけだし…私が一緒に行くわ。」
あ…そっか。
私、坂本さんにも波田さんにも心配されていたんだ。
「…すみません。」
情けなくなって来て、思わず俯いたら、坂本さんに背中をバシっと叩かれる。
「何言ってんのよ!今更よ、今更!」
「行くわよ!」とそのまま私の手を引く。
「あ、あの…でも…。」
「咲月ちゃん?困った時はお互い様。俺達だって、普段から沢山咲月ちゃんに助けてもらってるんだから。」
躊躇したら、波田さんがそういって微笑んだ。
私の手首を掴む坂本さんの手に力がグッと入る。
「…咲月ちゃんにとって、辛くないわけないじゃない。こんな状況。
だけどね?長年勤めてる、私や波田さんは、旦那様のお気持ちも、そして、小夜子さんの事も考えてしまうの。」
真っすぐ見つめる強い眼差し。それに少しだけ鼻の奥がツンとした。
だけどそれは…悲しいからじゃない。
「『谷村家の従業員』である、私達に出来る事は少ないかもしれない。
だからこそ、咲月ちゃんの為にしてあげられる事はしてあげたいのよ、少しでもね。」
私は、凄く恵まれてる環境に居るんだって、実感したから。
「お気持ちはわかりますがね、坂本さん。だからと言って真人様を旦那様や奥様に内緒で引き入れるのは感心しませんな。」
のっそりした声がキッチンの向こうから聞こえて来た。
…って、今、伊東さん、真人様って言った?
「あら、伊東さん。気が付いてたの?」
それに含み笑いで返す坂本さん。
「いや、全くですよ…敵いませんな、坂本さんには。」
「私はただ、お勝手口から真人様をお屋敷へと招いただけです。」
い、いつの間に…。
そ、そうか、私、お遣い行ってたから知らなかったのかな。
「俺、ちゃんと、入って来た時、『ただいま!』って言ったよ?ね?坂本さん!」
「ま、真人様!」
思わず声をあげたら、眩しい位のニッコリ笑顔がこっちに向いた。
「咲月ちゃん、久しぶり!」
足早に歩いて来ると、その大きな手が私の頭の上へとスーッと伸びて来る。触れる直前、それを両手で受け止めた。
「お、お久しぶりです…。お帰りなさいませ、真人様。」
皆の視線が集まる中、少し笑顔を引きつらせて挨拶する私。
すみません…真人様。
頭を撫でるのはちょっと…。
愛想笑いを続けてる私に、一瞬真顔になったかと思ったら、白い歯を見せてまた満面の笑み。
「も~!咲月ちゃん、相変わらず!」
「きゃあっ!」
そのまま長い腕でギュウッて抱きつかれた。
「はい、ストップ。離れろマコ。」
溜息まじりの冷静な声が耳元から聞こえる
引き離されて広がった視界には、ムスッとした顔の瑞稀様。
私をちらっと横目で見て、頭をポンポンって撫でると、眉を下げた。
「え~…久々の再会で、ちょっと感極まっただけじゃん。」
「そんなに極まりたかったら、涼太の所にでも行って存分に極まって来なさいよ。」
「あ、そう言う事言う?おりゃっ!」
「ちょっ!やめろ、バカ!」
長い腕が今度は瑞稀様に巻き付いて、そのまま二人でぎゃーぎゃーと騒ぎ出す。
「お二人とも、厨房ですよ!」
坂本さんの少し厳しめの声に、ビクンと同時に身体が跳ねたら
「「す、すみません…。」」
声を揃えて、シュンとする瑞稀様と真人様。
途端に響く、伊東さんと波田さんの笑い声。
「いや、懐かしいやり取りだ。」
「全くですな!」
それに恥ずかしそうにお二人が苦笑い。
そっか…こんな感じだったんだね、昔は。
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『咲月ちゃん、悪ぃんだけど、小夜子さんの部屋に夜の仕度、行って貰える?』
圭介さんと波田さんに頼まれた買い物を終えて、帰って来た夕飯の片付けを終えた頃、圭介さんから入ったメッセージ。
『悪いんだけど』…か。
完全に気を遣わせてしまってるな。
ただでさえ、圭介さんは忙しいのに…。
スマホを見ながらふうって溜息をついたら
「咲月ちゃん、大丈夫?」
坂本さんが横から覗き込んだ。
「あ…はい。大丈夫です。私、小夜子さんに夜の仕度を手伝う様に言われたので行ってきます。」
なるべく明るくそう返したら、坂本さんが何か言いたげに苦笑い。
その後ろから、波田さんがハハッて代わりに声を出した。
「坂本さん、まるで母親だな」
「いやねえ…姉って言ってよ、波田さん!それに波田さんだって、わざわざ沢山のお遣いを咲月ちゃんに頼んでたじゃない。」
「それは…ほら、屋敷の外に出て、気分転換するのも必要だろ?たまには。」
二人のやり取りに小首を傾げたら、二人して含み笑い。
「咲月ちゃん?今日は小夜子さんに初めて会ったわけだし…私が一緒に行くわ。」
あ…そっか。
私、坂本さんにも波田さんにも心配されていたんだ。
「…すみません。」
情けなくなって来て、思わず俯いたら、坂本さんに背中をバシっと叩かれる。
「何言ってんのよ!今更よ、今更!」
「行くわよ!」とそのまま私の手を引く。
「あ、あの…でも…。」
「咲月ちゃん?困った時はお互い様。俺達だって、普段から沢山咲月ちゃんに助けてもらってるんだから。」
躊躇したら、波田さんがそういって微笑んだ。
私の手首を掴む坂本さんの手に力がグッと入る。
「…咲月ちゃんにとって、辛くないわけないじゃない。こんな状況。
だけどね?長年勤めてる、私や波田さんは、旦那様のお気持ちも、そして、小夜子さんの事も考えてしまうの。」
真っすぐ見つめる強い眼差し。それに少しだけ鼻の奥がツンとした。
だけどそれは…悲しいからじゃない。
「『谷村家の従業員』である、私達に出来る事は少ないかもしれない。
だからこそ、咲月ちゃんの為にしてあげられる事はしてあげたいのよ、少しでもね。」
私は、凄く恵まれてる環境に居るんだって、実感したから。
「お気持ちはわかりますがね、坂本さん。だからと言って真人様を旦那様や奥様に内緒で引き入れるのは感心しませんな。」
のっそりした声がキッチンの向こうから聞こえて来た。
…って、今、伊東さん、真人様って言った?
「あら、伊東さん。気が付いてたの?」
それに含み笑いで返す坂本さん。
「いや、全くですよ…敵いませんな、坂本さんには。」
「私はただ、お勝手口から真人様をお屋敷へと招いただけです。」
い、いつの間に…。
そ、そうか、私、お遣い行ってたから知らなかったのかな。
「俺、ちゃんと、入って来た時、『ただいま!』って言ったよ?ね?坂本さん!」
「ま、真人様!」
思わず声をあげたら、眩しい位のニッコリ笑顔がこっちに向いた。
「咲月ちゃん、久しぶり!」
足早に歩いて来ると、その大きな手が私の頭の上へとスーッと伸びて来る。触れる直前、それを両手で受け止めた。
「お、お久しぶりです…。お帰りなさいませ、真人様。」
皆の視線が集まる中、少し笑顔を引きつらせて挨拶する私。
すみません…真人様。
頭を撫でるのはちょっと…。
愛想笑いを続けてる私に、一瞬真顔になったかと思ったら、白い歯を見せてまた満面の笑み。
「も~!咲月ちゃん、相変わらず!」
「きゃあっ!」
そのまま長い腕でギュウッて抱きつかれた。
「はい、ストップ。離れろマコ。」
溜息まじりの冷静な声が耳元から聞こえる
引き離されて広がった視界には、ムスッとした顔の瑞稀様。
私をちらっと横目で見て、頭をポンポンって撫でると、眉を下げた。
「え~…久々の再会で、ちょっと感極まっただけじゃん。」
「そんなに極まりたかったら、涼太の所にでも行って存分に極まって来なさいよ。」
「あ、そう言う事言う?おりゃっ!」
「ちょっ!やめろ、バカ!」
長い腕が今度は瑞稀様に巻き付いて、そのまま二人でぎゃーぎゃーと騒ぎ出す。
「お二人とも、厨房ですよ!」
坂本さんの少し厳しめの声に、ビクンと同時に身体が跳ねたら
「「す、すみません…。」」
声を揃えて、シュンとする瑞稀様と真人様。
途端に響く、伊東さんと波田さんの笑い声。
「いや、懐かしいやり取りだ。」
「全くですな!」
それに恥ずかしそうにお二人が苦笑い。
そっか…こんな感じだったんだね、昔は。
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