にじいろの向こう側
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小夜子様がお屋敷に来られてから1ヶ月が過ぎた。
『しばらく離れよう』と二人で決めて。それが恐らく伝わっているであろう圭介さんや涼太さんはもちろん、波田さんや坂本さん、伊東さんがさりげなく、二人との接触を避ける様な仕事を回してくれてる気がする。
それから…奥様も?
この1ヶ月で、週に二度は「ケーキを作りたいから」と呼び出されて
行かれたイタリアの話とか、読んだ本の話とか…沢山の他愛も無い話を楽しそうにしてくれて。
おかげで、あまり考えず、二人の仲睦まじい姿もあまり見かける事無く、過ごす事が出来ていた。
とは言え、瑞稀様のお忙しさは相変わらずな様で、戻られたのは、二、三度程。
一度、上田さんが付いて来て、昼間に戻られた時があって。
温室裏でお会いして、ハンカチも返せた。
「わざわざすみません」と笑うあの笑顔が、凄く素敵だなってつくづく思った。
背筋をピンと伸ばして、ピンヒールを品よく履きこなしてる姿に『私も頑張らないと』と思ったっけ。
私も…上田さんみたいに、凛としてて、雰囲気の柔らかい女性になりたい。
ま、まあ…スタイルはちょっと真似出来ないけど…恐らく。
それから…瑞稀様と接触を避けようとなってから、一番気を遣って下さったのは、恐らく真人様。
「俺、暇だからさ!」と何かと、会いに来て下さったり、何故か一緒に掃除したり洗濯干したり。恐縮していたら、「いいのよ、やりたいんだから」って奥様まで。
だけど、やっぱり、沢山私の知らない話をしてくれて、それが凄く楽しくて、あまり色々な事を深く考えずに済んでいた。
実際、小夜子様とお話したのも、数回で。
まあ、挨拶は毎日もちろんしてたけど…小夜子様自身も、奥様と一緒に出掛けたり、伊東さんが付いていたりでお忙しく過ごしているみたいだったから、二人で話すって事はほとんど無くて。
皆さんが作り上げてくれている環境に心底感謝していた。
けれど。
それぞれ皆やるべき事があって忙しい最中で、私に気を回さなくてはいけないという状況を作ってしまった事が、本当に不甲斐ないとも思っていて。
『少し待ってて』
瑞稀様はそう仰ったけど、どの位待てば良いんだろう…。
小夜子様にもそろそろ本当の事を言わないといけない気がするし。
小夜子様は私と瑞稀様の関係については、主人とメイドだと思っていて。その上で歳が近いからと、フレンドリーに優しく接してくれているわけで。
やっぱり…後ろめたい…。
全ては私が瑞稀様を諦められないところに端を発しているのだけれど。
ふと見上げた空は、梅雨の時期に珍しく、晴天で。飛行機雲が鮮明に映し出されてた。
…智樹さん、お元気かな。
今どこで何をしてるんだろう…。
『咲月ちゃん、笑顔でね』
…こんな状態じゃ、笑顔になるなんて無理だよ。
フウッて溜息付いたらポケットでスマホが揺れた。
『本日は、夕方頃瑞稀様がお戻りになります』
…珍しく早い帰宅だ。
トクンと心音が大きく跳ねた。
わかっている、わかってるよ。
私と会うのは無理だって。
きっと帰って来たらずっと小夜子さんと一緒にいるんだろうし。
大きく息を吸ったら、箒を動かす手に力が籠った。
『咲月、ただいま。』
箒の地面を擦る音に混じって瑞稀様の優しい声が脳裏に蘇る。
…いいの、別に。
二人になれなくたって、瑞稀様がここへお戻りになって、お元気な姿を見るだけで。
だから、いつも以上に気合い入れて掃除も洗濯もお部屋のお片づけもしよう。
瑞稀様が気持ち良くお過ごしになれる様に。
玄関先の掃除を終えると今度はお屋敷の中
「相変わらず良く働くわね~」
なんて坂本さんにカラカラ笑われながら、無我夢中で働いた。
だって、今瑞稀様に私が出来る事ってこれだけだから。
“ご主人様とメイド”という繋がりだけ。
だから…それが消えないように明確にしておきたい、その繋がりを。
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小夜子様がお屋敷に来られてから1ヶ月が過ぎた。
『しばらく離れよう』と二人で決めて。それが恐らく伝わっているであろう圭介さんや涼太さんはもちろん、波田さんや坂本さん、伊東さんがさりげなく、二人との接触を避ける様な仕事を回してくれてる気がする。
それから…奥様も?
この1ヶ月で、週に二度は「ケーキを作りたいから」と呼び出されて
行かれたイタリアの話とか、読んだ本の話とか…沢山の他愛も無い話を楽しそうにしてくれて。
おかげで、あまり考えず、二人の仲睦まじい姿もあまり見かける事無く、過ごす事が出来ていた。
とは言え、瑞稀様のお忙しさは相変わらずな様で、戻られたのは、二、三度程。
一度、上田さんが付いて来て、昼間に戻られた時があって。
温室裏でお会いして、ハンカチも返せた。
「わざわざすみません」と笑うあの笑顔が、凄く素敵だなってつくづく思った。
背筋をピンと伸ばして、ピンヒールを品よく履きこなしてる姿に『私も頑張らないと』と思ったっけ。
私も…上田さんみたいに、凛としてて、雰囲気の柔らかい女性になりたい。
ま、まあ…スタイルはちょっと真似出来ないけど…恐らく。
それから…瑞稀様と接触を避けようとなってから、一番気を遣って下さったのは、恐らく真人様。
「俺、暇だからさ!」と何かと、会いに来て下さったり、何故か一緒に掃除したり洗濯干したり。恐縮していたら、「いいのよ、やりたいんだから」って奥様まで。
だけど、やっぱり、沢山私の知らない話をしてくれて、それが凄く楽しくて、あまり色々な事を深く考えずに済んでいた。
実際、小夜子様とお話したのも、数回で。
まあ、挨拶は毎日もちろんしてたけど…小夜子様自身も、奥様と一緒に出掛けたり、伊東さんが付いていたりでお忙しく過ごしているみたいだったから、二人で話すって事はほとんど無くて。
皆さんが作り上げてくれている環境に心底感謝していた。
けれど。
それぞれ皆やるべき事があって忙しい最中で、私に気を回さなくてはいけないという状況を作ってしまった事が、本当に不甲斐ないとも思っていて。
『少し待ってて』
瑞稀様はそう仰ったけど、どの位待てば良いんだろう…。
小夜子様にもそろそろ本当の事を言わないといけない気がするし。
小夜子様は私と瑞稀様の関係については、主人とメイドだと思っていて。その上で歳が近いからと、フレンドリーに優しく接してくれているわけで。
やっぱり…後ろめたい…。
全ては私が瑞稀様を諦められないところに端を発しているのだけれど。
ふと見上げた空は、梅雨の時期に珍しく、晴天で。飛行機雲が鮮明に映し出されてた。
…智樹さん、お元気かな。
今どこで何をしてるんだろう…。
『咲月ちゃん、笑顔でね』
…こんな状態じゃ、笑顔になるなんて無理だよ。
フウッて溜息付いたらポケットでスマホが揺れた。
『本日は、夕方頃瑞稀様がお戻りになります』
…珍しく早い帰宅だ。
トクンと心音が大きく跳ねた。
わかっている、わかってるよ。
私と会うのは無理だって。
きっと帰って来たらずっと小夜子さんと一緒にいるんだろうし。
大きく息を吸ったら、箒を動かす手に力が籠った。
『咲月、ただいま。』
箒の地面を擦る音に混じって瑞稀様の優しい声が脳裏に蘇る。
…いいの、別に。
二人になれなくたって、瑞稀様がここへお戻りになって、お元気な姿を見るだけで。
だから、いつも以上に気合い入れて掃除も洗濯もお部屋のお片づけもしよう。
瑞稀様が気持ち良くお過ごしになれる様に。
玄関先の掃除を終えると今度はお屋敷の中
「相変わらず良く働くわね~」
なんて坂本さんにカラカラ笑われながら、無我夢中で働いた。
だって、今瑞稀様に私が出来る事ってこれだけだから。
“ご主人様とメイド”という繋がりだけ。
だから…それが消えないように明確にしておきたい、その繋がりを。
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