にじいろの向こう側
◇
「お待ちしておりました。」
早朝、まだ咲月が眠ってるのを確認してから降りていったロビー。
圭介と上田がラウンジで待機していた。
「両者とも手はずは整っております。」
「ありがとう。じゃあ、行こっか、上田。圭介、後はよろしくね。」
「かしこまりました」と二人同時に会釈。
その綺麗な所作に、俺の気持ちも一層引き締まった。
…もう、ここまで来たら後には引けない。
前を見るしかないから。
『メイドに手を出すのだって相当勇気いるんだよ。』
昔咲月に言った言葉を思い出す。
『覚悟』なんて、あの瞬間からきっと決まってたんだよ。
こう言う事になったら腹をくくるって…。
車のドアを開けてくれた圭介が、ニッと唇の片端をあげた。
「…いってらっしゃいませ。」
「うん。ありがとう。」
バタンと閉まるドア。
隣に乗り込んだ上田が少しだけ心配の色をその表情に見せた。
「…上田、ありがとう、長い間。改めてお礼はさせて?」
「いえ…私など、あまりお役に立てませんで。」
「そんな事ないでしょ。上田が居なかったら今の俺はあり得ませんから。」
俺の言葉に目を見開いて、瞳を潤ませる。
珍しく表情が変わった…。
少し驚いた俺に気が付いたのか、咄嗟に俯いて目元を拭うと、また顔を上げた。
「…光栄です。社長にそう言って頂けるなど夢にも思いませんでした。残りの期間も引き続き精一杯勤めさせて頂きます。」
この人…本当にモテるんだろうね。こんな何つーか、色気がある割に隙もあってさ…。
「上田って彼氏いんの?」
「はっ?!」
…『は?!』って言った?今。
「あ…いえ…。」
急に顔が赤くなって困り顔。
「や、ごめん、今のはセクハラだわ、完全に。」
「い、いえ…その…大丈夫です。私など…お相手の方はきっと目にもとめてらっしゃらないかと…」
…好きな人が居るって言っちゃってるじゃん。
「ふ~ん…幸せ者だね、そいつ。」
「幸せ?!まさか!不幸の始まりとしか思えません!」
「や…不幸って…。」
…いちいち反応が新鮮なんだけど。
まさかの、弱点が恋バナって…。
口元隠して笑う俺に、上田は顔を赤くしたまま苦笑い。
「ご勘弁を」そう言うとタブレットに目を落とした。
.
「お待ちしておりました。」
早朝、まだ咲月が眠ってるのを確認してから降りていったロビー。
圭介と上田がラウンジで待機していた。
「両者とも手はずは整っております。」
「ありがとう。じゃあ、行こっか、上田。圭介、後はよろしくね。」
「かしこまりました」と二人同時に会釈。
その綺麗な所作に、俺の気持ちも一層引き締まった。
…もう、ここまで来たら後には引けない。
前を見るしかないから。
『メイドに手を出すのだって相当勇気いるんだよ。』
昔咲月に言った言葉を思い出す。
『覚悟』なんて、あの瞬間からきっと決まってたんだよ。
こう言う事になったら腹をくくるって…。
車のドアを開けてくれた圭介が、ニッと唇の片端をあげた。
「…いってらっしゃいませ。」
「うん。ありがとう。」
バタンと閉まるドア。
隣に乗り込んだ上田が少しだけ心配の色をその表情に見せた。
「…上田、ありがとう、長い間。改めてお礼はさせて?」
「いえ…私など、あまりお役に立てませんで。」
「そんな事ないでしょ。上田が居なかったら今の俺はあり得ませんから。」
俺の言葉に目を見開いて、瞳を潤ませる。
珍しく表情が変わった…。
少し驚いた俺に気が付いたのか、咄嗟に俯いて目元を拭うと、また顔を上げた。
「…光栄です。社長にそう言って頂けるなど夢にも思いませんでした。残りの期間も引き続き精一杯勤めさせて頂きます。」
この人…本当にモテるんだろうね。こんな何つーか、色気がある割に隙もあってさ…。
「上田って彼氏いんの?」
「はっ?!」
…『は?!』って言った?今。
「あ…いえ…。」
急に顔が赤くなって困り顔。
「や、ごめん、今のはセクハラだわ、完全に。」
「い、いえ…その…大丈夫です。私など…お相手の方はきっと目にもとめてらっしゃらないかと…」
…好きな人が居るって言っちゃってるじゃん。
「ふ~ん…幸せ者だね、そいつ。」
「幸せ?!まさか!不幸の始まりとしか思えません!」
「や…不幸って…。」
…いちいち反応が新鮮なんだけど。
まさかの、弱点が恋バナって…。
口元隠して笑う俺に、上田は顔を赤くしたまま苦笑い。
「ご勘弁を」そう言うとタブレットに目を落とした。
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