にじいろの向こう側
◇
レストランの個室を出て、庭先に小夜と二人で座る。
「…懐かしいね、ここに二人で座るのも。小学校以来かな…。」
先に言葉を紡ぎ出したのは小夜だった。
「瑞稀はさ、私が、ベソかいてると絶対となりに居るの。で、『泣き虫小夜さんまたですか?』って頭撫でてさ…。」
瞳からこぼれ落ちて来る雫がポタリ、ポタリ…とスカートの裾をぬらしてく
「…自分だって充分寂しかったくせにさ。」
「そうでもないよ、俺は。真人が居たし、小夜がよく泣くから必死で、寂しがってる暇なんてなかったから。」
空を仰いでそう答えた俺を少し見ると小夜も空を見上げた。
「…強がり。」
「お互い様でしょ。」
「まあね…。ねえ、瑞稀。」
「ん?」
「キスして。そしたら全部終わりにしてあげる。」
いつも見て来た、少し寂しそうな笑顔。これを満面の笑みに変えたくて、いっつも必死だった、あの頃の俺。
…甘かったよな、自分に。
本当に小夜を支えるって事がどう言う事か全く分かってなかった。
自分の側に居て欲しい、それだけで、小夜の背中を『大丈夫だよ』って押してあげる事をしなかった。
今は…そうする事が小夜の為だってわかる。
咲月が俺をそうやって送り出して、そして迎え入れてくれていたから。
「…残念だけど、俺のはあの人専用だから。」
笑って答えたら、ムッとその顔が分かり易く歪む。
「終わらせてあげるって言ってるのに。」
「うん、分かってるよ?でも、この前も言ったけど、俺の中で小夜の事はちゃんと終わりになってる。
小夜が終わりに出来ないなら、小夜なりに考えて欲しいかな、そんな条件云々じゃなく。」
「……。」
一瞬俯いたあと、ふうと溜息をついた小夜は「あ~あ」とまた空を仰いだ。
「そんなにいいかな、あの子。私にはよくわかんない。」
「分からなくて結構です。つか、わかってくれない方がいいかも。」
「何それ。」
俺の返事に小夜はクスリと楽しそうに笑う。
「や、あの人さ…モテるんだよ、意外と。だからさ、これ以上あの人の事好きな人が増えると俺的には困るわけ。」
「…瑞稀、その発言、誰かの前で言わない方がいいと思う。」
「ああ、ヒいた?」
「ヒくでしょ、いい大人がさ…何言ってるんだか。」
飽きれた様に小夜は立ち上がり、一度伸びをした。
「まあ、私は無一文になる瑞稀なんかに全く魅力感じないから、どうでもいいけど。土下座されたってお断り。
さっきお姉ちゃんも言ってたでしょ?私、モテるの。瑞稀なんかよりイイ男、簡単に捕まえられるもん。お父様もこれからは門前払いしないと言ってくれていたしね。」
俺に背を向けてから、一瞬振り返ったら満面の笑み。
「…またね、瑞稀。いつか、私を手放した事を後悔するよ、瑞稀は。」
そのまま、また背を向けると来た廊下を歩いて行った。
小夜、ありがとう…ずっと。
沢山、感謝してる。
誰がどう言おうと、俺は沢山、小夜に救われていたから。
今一度見上げた空にフウッて深く息を吐いたら、簡単に浮かんで来る咲月の笑顔。
咲月…
あなたが俺と出会って与えてくれたモノに、見合う事は何一つ出来なかったけれど
結局あなたを沢山傷つけて泣かせてしまったけれど
咲月がこの先もちゃんと笑って生きて行けるなら、それは俺の望む事だから。
……元気でいて、ずっと。
.
レストランの個室を出て、庭先に小夜と二人で座る。
「…懐かしいね、ここに二人で座るのも。小学校以来かな…。」
先に言葉を紡ぎ出したのは小夜だった。
「瑞稀はさ、私が、ベソかいてると絶対となりに居るの。で、『泣き虫小夜さんまたですか?』って頭撫でてさ…。」
瞳からこぼれ落ちて来る雫がポタリ、ポタリ…とスカートの裾をぬらしてく
「…自分だって充分寂しかったくせにさ。」
「そうでもないよ、俺は。真人が居たし、小夜がよく泣くから必死で、寂しがってる暇なんてなかったから。」
空を仰いでそう答えた俺を少し見ると小夜も空を見上げた。
「…強がり。」
「お互い様でしょ。」
「まあね…。ねえ、瑞稀。」
「ん?」
「キスして。そしたら全部終わりにしてあげる。」
いつも見て来た、少し寂しそうな笑顔。これを満面の笑みに変えたくて、いっつも必死だった、あの頃の俺。
…甘かったよな、自分に。
本当に小夜を支えるって事がどう言う事か全く分かってなかった。
自分の側に居て欲しい、それだけで、小夜の背中を『大丈夫だよ』って押してあげる事をしなかった。
今は…そうする事が小夜の為だってわかる。
咲月が俺をそうやって送り出して、そして迎え入れてくれていたから。
「…残念だけど、俺のはあの人専用だから。」
笑って答えたら、ムッとその顔が分かり易く歪む。
「終わらせてあげるって言ってるのに。」
「うん、分かってるよ?でも、この前も言ったけど、俺の中で小夜の事はちゃんと終わりになってる。
小夜が終わりに出来ないなら、小夜なりに考えて欲しいかな、そんな条件云々じゃなく。」
「……。」
一瞬俯いたあと、ふうと溜息をついた小夜は「あ~あ」とまた空を仰いだ。
「そんなにいいかな、あの子。私にはよくわかんない。」
「分からなくて結構です。つか、わかってくれない方がいいかも。」
「何それ。」
俺の返事に小夜はクスリと楽しそうに笑う。
「や、あの人さ…モテるんだよ、意外と。だからさ、これ以上あの人の事好きな人が増えると俺的には困るわけ。」
「…瑞稀、その発言、誰かの前で言わない方がいいと思う。」
「ああ、ヒいた?」
「ヒくでしょ、いい大人がさ…何言ってるんだか。」
飽きれた様に小夜は立ち上がり、一度伸びをした。
「まあ、私は無一文になる瑞稀なんかに全く魅力感じないから、どうでもいいけど。土下座されたってお断り。
さっきお姉ちゃんも言ってたでしょ?私、モテるの。瑞稀なんかよりイイ男、簡単に捕まえられるもん。お父様もこれからは門前払いしないと言ってくれていたしね。」
俺に背を向けてから、一瞬振り返ったら満面の笑み。
「…またね、瑞稀。いつか、私を手放した事を後悔するよ、瑞稀は。」
そのまま、また背を向けると来た廊下を歩いて行った。
小夜、ありがとう…ずっと。
沢山、感謝してる。
誰がどう言おうと、俺は沢山、小夜に救われていたから。
今一度見上げた空にフウッて深く息を吐いたら、簡単に浮かんで来る咲月の笑顔。
咲月…
あなたが俺と出会って与えてくれたモノに、見合う事は何一つ出来なかったけれど
結局あなたを沢山傷つけて泣かせてしまったけれど
咲月がこの先もちゃんと笑って生きて行けるなら、それは俺の望む事だから。
……元気でいて、ずっと。
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