にじいろの向こう側




『手作りを混ぜる』と言う提案は涼太さんから皆へ伝えられた。


「あら、いいじゃない!そうだわ!昔、瑞稀様にせがまれて作ったトナカイ!作ってみようかしら!」

「じゃあ、私は、久しぶりにジンジャークッキーを瑞稀坊ちゃんのお好みの味で作ってみます。
瑞稀坊ちゃんが子供の頃以来だなぁ…」

満面の笑みで喜んで盛上がってくれた坂本さんとコックの波田さん。


「俺も作んなきゃダメ…?」
「や、必須だよ?全員作んなきゃ意味無いから。」


逃げ腰の薮さんを嬉しそうにからかう涼太さんに、思わず頰が緩んだ。


皆で何か一つの事を出来るのはやっぱり楽しい。
瑞稀様も喜んで下さるといいな…。


あの柔らかい笑顔を思い浮べたら自然とまた頬が緩んでしまう。


瑞稀様の部屋で一人、同志であるもみの木を見上げながら思わずクリスマスソングを口ずさんでた。

不意に背後で扉が勢い良く開く音がする。
振り向いて見た、入り口には真顔で立つ瑞稀様のお姿。


う、うそ…薮さんからの連絡…私、気が付かなかった?


スマホを慌てて確認してみたけれど、全く連絡は来ていない。


「ただいま」と近づいてくる瑞稀様に鼓動が強く大きく全身を駆け巡った。

こ、これは…チャンスかもしれない。
瑞稀様とお話をする。


まずはきちんと非礼をお詫びしないと。


全身に力を込めて、『お話したい』と言葉を発する。
薮さんにお伝えしなさいと言う瑞稀様の言葉に、逆らった。

初めて…瑞稀様の言葉に「はい」と言わなかった。


主人に逆らうなどと言う、あってはならない行動に出たからだろうか、泣きそうな程に、気持ちが高ぶり緊張している。

思わず持っていたオーナメントの箱をぎゅっと抱き締め直した。

瑞稀様は呆れた様な溜息で、腕時計を見る。


「…1分。」
「え?」
「薮が多分もうすぐ来るから。一分ならいいよ。」

い、1分……


瑞稀様は、驚いている私をよそに、「ほら、早く言いな」と目の前まで歩いて来て、腕時計で時間を確認しながら、カウントをし始める。

「60…59…」


ま、まずは謝って…


「き、昨日は、突然泣いてしまって、その、大変失礼致しました」
「…残り30秒。」


さ、30秒?!

どうしよう…伝えたい事がいっぱいあるのに。


「その…突然泣いてしまったのは…その…」
「15…14…」


時間がない…。
こうなったら、まず自分が一番伝えたい事を伝えなきゃ。


「7…6…」


えっと…一番伝えたい事…


「3…2…」


あーもう!


「わ、私、瑞稀様が好きなんです!!」



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