にじいろの向こう側



「行って来るね」と頭を撫でてくれて、プレゼントをしたマフラーを巻いてくれた瑞稀様が出掛けた後、普段の業務の傍ら、圭介さんの指示の元開始された真人様のお誕生日会の準備。


「今年は忙しいわね!」


そう言う坂本さんは本当に嬉しそうで


「真人様、昔、ケーキに頭つっこんじゃってね?」


なんて昔話も沢山してくれて、終始笑いに包まれていた。


真人様…本当に良い方なんだろうな。
こうして関わる人を笑顔に出来る。


『マコが笑ってくれてりゃそれで良いと思っていた』


…瑞稀様がそう思われるのも納得がいく。
瑞稀様が真人様の一番近くにいらっしゃったのだろうから。




「真人様、そろそろお帰りになるはずだから。」



準備を全て終えた頃には、日が落ちかけていた。

圭介さんが、満足そうに完成した部屋の中を見渡した後、時計で時間を確認する。


真人様、今日は朝から外出されていると言っていたな…。
おかげでご本人に知られる事なく準備が出来た。


「お、出来上がってんじゃん。」
「でしょ?坂本さんの記憶を元に、昔の真人様の誕生日パーティーを再現してみた。」


涼太さんの登場に更に圭介さんが嬉しそうに微笑んだ


「あの人、泣くんじゃない?こんなのされたら。」

「確かに、確かに。真人さんて涙脆いからね」

「そうなのよね~!」


坂本さんも一緒になって盛上がっている。


…ご本人が登場していないのにね。
真人様はそれだけ魅力溢れた方なんですね、瑞稀様。


『あ~もう。マコは…』


そう言って眉を下げて笑う瑞稀様を思い出した。









全ての料理を仕度し終えた、波多さんも加わって、昔話に花が咲く事、30分



「ただいま…ってえ?!何これ!凄くない?!」


圭介さんに促されて入って来た真人様は


「うわ~…ちょっと!マジでこれはヤバいって…」


涼太さんに肩組まれて、その瞳からポタリと涙を落とす。


「やっぱり泣いた」

「はっ?!涼太何言ってんの?よく見て?泣いてねーし!」

「泣いてるよ?完璧に…「圭介~!!!」…ちょっと抱きつかないでってば、真人さん!」

「坂本さんも波多さんもよく昔の事覚えてたね!」

「そりゃ覚えてますよ。坊ちゃんの事は。」

「そうね…忘れたくても忘れられない事も多いですからね…」


ふふっと笑う坂本さんと波多さん。

そんな和やかな雰囲気が素敵で、思わず笑みを零したら、「咲月ちゃんもありがとう!」と真人様に満面の笑みを向けられた。










乾杯の後


「今日は皆で乾杯して!料理も皆で食べよう!」


そんな真人様の提案で、一緒に美味しいお酒とお料理を少し頂いていた最中だったと思う。


「咲月ちゃん、ちょっといい?」


そう真人様に促されて足を運んだテラスは外の寒さが、楽しい雰囲気に高揚して火照った体にはヒンヤリしてて心地良かった。


「あ~!何か皆に祝ってもらえるのってやっぱりいいよね!」


満面の笑みで庭を見つめる真人様のサラサラの髪が少し風に揺れている。


「…瑞稀様が間に合わなくて残念でした。」

「本当だよね…。でも、咲月ちゃんが祝ってくれたから、嬉しいかも!」


「ありがとね?」と少し覗き込む様に私を見る真人様の瞳がイルミネーションに反射して煌めいている。


「…今日はさ、朝からちょっと友人に会っててね。昔海外で出会った友人なんだけどさ。今は日本に居て。お祝いで釣りに連れて行ってくれてたの。」

「そう…だったんですね。」

「そしたら、帰ってきたらこのサプライズだもんね!本当に今年は楽しい一日になった。」

「良かったです。お役に立てて。」

「もー!咲月ちゃんは、硬いな〜!って、メイドと主人だもんね、仕方ないか。」


真人様がふわっと笑顔になってそのまま少し私に身体を向けた。


「咲月ちゃん…さ。」

「はい…」

「もしさ、もしだよ?もしも、の話!」

「は、はあ…」


な、何だろう…とても念を押してらっしゃるけれど、前置きで。


「その…さ、俺がもう一度旅に出るから、『一緒に来て!』って言ったらついて来てくれる?」


思わず息を飲んだ。


「あ、あの…」

「や、だからさ、もしも!だよ!…って、ちょっと!ヒキ過ぎ!傷つく!」

「え?!や、あの…そう言う事では…少し驚いただけで…。」


慌てて、手を顔の前で振ったら、髪が少し揺れて、シュシュの存在が頭に少し伝わった気がした。


真人様と一緒に『旅』…か。
きっと楽しいんだろうな…色んな世界を見る事が出来て。真人様は明るくてお優しいから、余計に。


ふうと吐いた白い息がイルミネーションに彩られて舞い上がって行った。

「あの…真人様」
「うん」
「私は…。」


真人様にとっては軽い会話の単なるたとえ話だけれど、何でか『旅』をする自分をすごくリアルに想像してしまって、自然ともの凄く真面目に答えていた。



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