にじいろの向こう側
.
真人様が旅立たれてから数週間が過ぎた。
瑞稀様のご帰宅を待たずにお屋敷を後にした真人様が最後に私に向けてくださった表情がずっと印象に残っている。
「咲月ちゃん、瑞稀の事、よろしくね?」
優しくも真剣で有無を言わせない表情。
それに「はい」と返事をしたら今度は柔らかく満足そうに笑っていた。
…瑞稀様にお話した様に、私はずっと瑞稀様の傍に居たいと思っている。
真人様に返事をしたことで、それがより現実味を帯びた気がして、そして真人様に背中を押された感じがして、嬉しかった。
『バカ兄貴…』
憂鬱を帯びた瑞稀様の表情を思い出す。
…願わくば、真人様が瑞稀様の近くに居てくれたらと思う。
真人様といらっしゃる時の瑞稀様はとても安心をしていて穏やかな表情をされていた。
私にその代りは出来る事は無いけれど、それでも瑞稀様が私を求めてくれる瞬間があるならば、これからもお側に居たい…。
お正月も過ぎた、日曜日の早朝。日が昇る少し前のヒンヤリとした部屋の中。
「ん……。」
柔らかくて暖かい布団の中、寝返りで瑞稀様に背を向けたら、そのまま回されている腕で引寄せられた。
26日の夜に、一日遅いクリスマスを二人で過ごして以来、こうして瑞稀様のお部屋にお泊まりする日が時々出来た。
もちろんお忙しい方だから、お屋敷に帰って来る事自体が毎日ではなくて、特に31日の年末から、年始にかけてはほぼ、不在の状態だった。
谷村家ともなれば、さぞ盛大にお正月を祝うんだろうな・と思っていたのに、ほぼ、普段と変わらない日々。
もちろん、薮さんの指揮…改め、坂本さんの指揮のもと、大掃除はしたし、波多さんがすごく美味しいお雑煮とおしるこを用意してくれたけれど。
その位なもんで。
「まあ、散々外でお正月を味わって来てるから、家では普通に過ごしたいみたいだよ」と圭介さんは笑っていたっけ。
世間が休みでも、その間にやらなければいけない事があるんだな、トップに立つ様な人間は。
改めて、瑞稀様が気の休まる様なお屋敷にしなければと心に強く想ったお正月。
そこから数日後に今年初めての帰宅があって、お泊まりし、今日が今年2度目のお泊まり。
「…今日は休みだろ、咲月は。ゆっくり寝てなよ。」
項に鼻を付けられて、くすぐったさを感じたらギュウッて腕に力が入って動きを封じられる。
「きょ、今日はその…出掛ける日、でして。」
「わかってるよ?それは。」
襟首を顎で少しどかされたと思ったらそこに唇が触れた
「っ…」
「でもまだダメ。」
背中に感じる瑞稀様の体温と少しかかる規則的な寝息に、私もまた微睡みヘと引きずられた。
.
真人様が旅立たれてから数週間が過ぎた。
瑞稀様のご帰宅を待たずにお屋敷を後にした真人様が最後に私に向けてくださった表情がずっと印象に残っている。
「咲月ちゃん、瑞稀の事、よろしくね?」
優しくも真剣で有無を言わせない表情。
それに「はい」と返事をしたら今度は柔らかく満足そうに笑っていた。
…瑞稀様にお話した様に、私はずっと瑞稀様の傍に居たいと思っている。
真人様に返事をしたことで、それがより現実味を帯びた気がして、そして真人様に背中を押された感じがして、嬉しかった。
『バカ兄貴…』
憂鬱を帯びた瑞稀様の表情を思い出す。
…願わくば、真人様が瑞稀様の近くに居てくれたらと思う。
真人様といらっしゃる時の瑞稀様はとても安心をしていて穏やかな表情をされていた。
私にその代りは出来る事は無いけれど、それでも瑞稀様が私を求めてくれる瞬間があるならば、これからもお側に居たい…。
お正月も過ぎた、日曜日の早朝。日が昇る少し前のヒンヤリとした部屋の中。
「ん……。」
柔らかくて暖かい布団の中、寝返りで瑞稀様に背を向けたら、そのまま回されている腕で引寄せられた。
26日の夜に、一日遅いクリスマスを二人で過ごして以来、こうして瑞稀様のお部屋にお泊まりする日が時々出来た。
もちろんお忙しい方だから、お屋敷に帰って来る事自体が毎日ではなくて、特に31日の年末から、年始にかけてはほぼ、不在の状態だった。
谷村家ともなれば、さぞ盛大にお正月を祝うんだろうな・と思っていたのに、ほぼ、普段と変わらない日々。
もちろん、薮さんの指揮…改め、坂本さんの指揮のもと、大掃除はしたし、波多さんがすごく美味しいお雑煮とおしるこを用意してくれたけれど。
その位なもんで。
「まあ、散々外でお正月を味わって来てるから、家では普通に過ごしたいみたいだよ」と圭介さんは笑っていたっけ。
世間が休みでも、その間にやらなければいけない事があるんだな、トップに立つ様な人間は。
改めて、瑞稀様が気の休まる様なお屋敷にしなければと心に強く想ったお正月。
そこから数日後に今年初めての帰宅があって、お泊まりし、今日が今年2度目のお泊まり。
「…今日は休みだろ、咲月は。ゆっくり寝てなよ。」
項に鼻を付けられて、くすぐったさを感じたらギュウッて腕に力が入って動きを封じられる。
「きょ、今日はその…出掛ける日、でして。」
「わかってるよ?それは。」
襟首を顎で少しどかされたと思ったらそこに唇が触れた
「っ…」
「でもまだダメ。」
背中に感じる瑞稀様の体温と少しかかる規則的な寝息に、私もまた微睡みヘと引きずられた。
.