にじいろの向こう側




私と話をした後、瑞稀様のお部屋を訪ねたらしい、坂本さん。


瑞稀様曰く、笑って「申し訳ございませんでした」と言ったらしい。


次の日の朝、掃除で会った時もスカーフの結び方はチェックされたけれど本当に至って普通で、今まで通り。


「やっぱり、坂本さんは凄いよな。」


朝のお仕度の時、報告したら、瑞稀様はそう言って嬉しそうに微笑んでいた。




そんな坂本さんの大人的対処のおかげで、今まで通りの生活を送ってる最中に行われた、瑞稀様に依頼されて皆で計画した、圭介さんのサプライズバースデーパーティー。


「まじかよ~。泣きそうなんだけど」と目を少し赤くする圭介さんに涼太さんが熱い抱擁したら、瑞稀様、すごく楽しそうに笑っていて。

…やっぱり、瑞稀様にとって、圭介さんは特別な存在なんだよね。


そんな風に思ったら、余計に瑞稀様の笑顔が嬉しくなったけれど


その次の日から、瑞稀様はお忙しさに拍車がかかって、全く帰って来なくなった。


…今はニューヨークにいらっしゃるって言っていたな。


圭介さんに頼まれて、スーツケースの用意をしたのが数日前の話。今回は少なくとも一週間はニューヨークに滞在されると言っていた。

と言うことは…次にご帰宅になるのは…


おなじみの早朝の門の前の掃除

「おはよ。」

帰って来る日を指折り数えてたら涼太さんが現れた。


「瑞稀が帰って来る日でも計算してんの?」
「っ!お、おはようございます…。」


図星を突かれて思わず顔が火照る。
誤摩化す様に笑顔を作った私をクッと笑いながら、隣で剪定を始める涼太さん。


「まあ…瑞稀もさ、今年は何が何でも2月の二週目には帰ってくるんじゃない?」
「え…?2週目…」
「ま、何か協力できそうな事あったらするから、頑張って?と言っても一番協力できんのは波田さんだろうけど。味の好みは知り尽くしてんだろうし。」


味?好み?
一体…


「あの…何の話ですか?」
「普通に2月14日の話だけど」


2月14日…


「ああっ!バレンタインですね!」

「…お前、そんなんでよく射止めたな、瑞稀を。」


苦笑いの涼太さんに私も思わず苦笑い。


『俺は咲月がいいの』


まあ…その辺は私にもよく分からない所ではあります。






「瑞稀様はここでは毎年甘いものは召し上がっていないわね。頂いて来たチョコレートはお茶やコーヒーの時に少し出していたかしらって言う程度で。」


洗濯物をたたみながら、坂本さんがそんな事を呟いた。


「まあでも、咲月ちゃんが渡したものなら嫌でも食べるでしょ。」


ニッコリ笑顔に思わず顔が火照る。


「いやねえ…もうイイ仲になって何ヶ月も経つのに。」


だって、坂本さん、本当に普段普通にしてくれるから、時々こうやって言われると凄く恥ずかしいんだもん。


「波田さんに相談したらいいんじゃない?食の好みは私より波多さんの方がよく知ってるわよ。」
「で、でも…」


どう話していいか、微妙だよね…。


「普通に言えば平気よ?多分もう知ってるから。」


し、知っている…?!


洗濯物をたたむ手を思わず止めて目を見開いた私を面白そうにカラカラ笑う坂本さん。


「あの人、私以上にそういうのに鼻が利くのよ。」


そ、そうなんだ…。

それにしても坂本さんといい、波田さんといい…大人だな。

知っていても、知らないフリをして普通に接してくれているなんて。


そう言えば、圭介さんや涼太さんだって。
私がハッキリ言ったわけじゃないのに、ちゃんと察してくれている。


思わず出た溜息。


「何よ、憂鬱そうな顔しちゃって。大丈夫よ!波田さんに聞けばちゃんと喜ぶもの作れるわよ!」

「はい…それは安心出来たのですが…何ていうか…。」

「何て言うか?」

「皆さん、大人で凄いな…と。私…もっと頑張らないととつくづく思いまして。」


たたみ終わったタオルを重ねたら、それを持って立ち上がる坂本さん。


「まあ、頑張るのは偉いと思うけどね?咲月ちゃんは咲月ちゃんだから魅力なんだって思うわよ。少なくとも私は好きだわ。」

「さ、坂本さん…。」

「器用そうに見えて、星がヒトデになっちゃう所とか」


ふふって笑いながら「瑞稀様の気持ちわかるわ~」って去っていく。


…星がヒトデになる所が私の魅力??

どう考えても、ただの不器用だけど。


首を傾げていたら、スマホがポケットの中で震えた。


『すぐにリビングに集まって下さい』


圭介さんから…。


何となく、そのメッセに胸騒ぎを覚えた。


珍しいな、全員招集。
真人様の誕生日の打ち合わせ以来だよね…。






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