春〜僕の手を、離さないで〜
私の父は、外ではいい父親を演じていたけど、家に帰ればただの暴力だけの人だった。酒とギャンブルに溺れ、外での鬱憤は全て母と私に暴力という形でぶつけられた。
そして、父はギャンブルで作った借金が膨れ上がり、母の収入や貯金ではどうしようもなくなってしまった。だから、小学六年生の冬に私たちは夜逃げすることになった。
『もう、ここには戻って来れないの……』
泣きながら私がそう言った時、『嫌だ!!』と春希くんは言った。そして、泣きながら私を抱きしめてくれた。
抱きしめ合うなんて、小学生になってからはすることはなかった。温もりが、心地いい。こんな時なのに落ち着いてしまう。
でも、私とは違って春希くんはずっと泣いていた。私より泣いてくれて、嬉しくなる。だからこう言ってしまった。
『すぐには戻って来れないけど、いつか必ず戻ってくるよ』
春希くんはまだ泣きながら、『待ってる!』と大きく頷いてくれた。そして、指を絡め合って約束をする。