春〜僕の手を、離さないで〜
この時は、春希くんを泣き止ませるための嘘だった。大嫌いな父の姿を見ていて、皮肉にも嘘をつくことは得意になっていた。

この街に帰ってきても、私の居場所なんてどこにもない。この街に戻ることはない。そう心では思っていても、笑顔をずっと最後まで張り付けていた。

そして、その日の夜に車で誰も知らない土地へ父と母と旅立った。

父は、新しい土地に行っても態度を変えることはなかった。むしろ家での態度は日に日に悪くなり、そのうち殺されるのではないかと身の危険を何度も感じた。

中学二年生の夏、勇気を出して母と二人で父から逃げた。四国にある母の実家に飛び込み、色々あったけど無事に父とは離婚が成立した。慰謝料は借金のことがあって支払うのは無理と判断されたためもらえなかったけど、私と母は暴力から逃げ出せることができた。

何度、死にたいって思ったかわからなかった。いっそのこと、殺してほしいと思った。でも私は最後に、生きることを選んだんだ。
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