春〜僕の手を、離さないで〜
その時、一段と強い風が吹いていく。目の前が花びらで覆われて、思わず目を閉じた。その暗闇の中、春希くんが私の手を強く掴んだ。その手が震えていることにすぐに気付く。

「春希くん?」

今度は、春希くんが泣き出しそうになっていた。私をジッと見つめ、瞳を潤ませていく。

「春香が、どっか行っちゃいそうだった……」

その声は震えていて、私の胸を締め付ける。そんな顔をしないで、笑って……。

「大丈夫、どこにも行かないよ」

私がそう言って笑った刹那、ギュッと春希くんに抱きしめられた。まるで離さないと言わんばかりに強く……。ポタポタと水滴が落ちてくる。春希くんの涙だ。

「僕の手を、離さないで。ずっとそばにいて。春香がまたいなくなったら、僕は……」

「大丈夫だよ。ずっと一緒だよ。愛してる」

泣きながら顔を上げた春希くんに、優しくキスをする。私からするなんて、久しぶりだ。ちょっと照れる。春希くんも驚いていた。
< 9 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop