お兄ちゃんへ
私は元々あの家に、お父さんとお兄ちゃんと三人で住んでいた。

訳あって、6年前にお兄ちゃんと私はあの家を出てから二人で暮らしていた。

だから、この辺の道とかは知っている。


引っ越しをするのは、今回で二度目。

お父さんが2ヶ月前に病気で亡くなって、誰もいなくなったあの家を管理する人がいなくなってしまって、私たちは戻ってくることにした。

お兄ちゃんにとっては、お母さんとの思い出も詰まった家だから。

お母さんは、私が物心つく前に病気で亡くなったらしい。


家を出た訳というのは、お父さんとお兄ちゃんはずっと不仲で、大学進学のタイミングで出ていくことを決めた。

私はそんなお兄ちゃんに、一緒に連れて行ってほしいって頼んだんだ。

人見知りで友達もいない私にとって、お兄ちゃんだけが心のよりどころだった。



お父さんは有名なピアニストで、ずっと家にいるけどずっと仕事をしていて、家族との時間を待とうとはしなかった。

不仲だったけど、今はお兄ちゃんもお父さんと同じようにピアニストとして生きている。


だから不仲だったのかもしれない。

いつもピアノのことで言い合いになっていた。

優しいお兄ちゃんが、お父さんの前では怖い顔をしていた。


そんなことを思い出しながらさっさと買い物を済ませていく。

美味しい晩ご飯作るぞ〜!

小さい頃はお手伝いさんがやってくれてたけど、あの家を出てから家事は全て私がやっていたから料理は得意なんだ。
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