イケメンの恋愛観察日記

なんだ、嘉川へのラブポエム集とかじゃないんだ…。

「ただのエロDVDか…何々?残業で2人きりになった気になるアイツは普段はクールで仕事の出来る女。コピー機が壊れたと言うアイツに近づいて後ろからも前からも…。」

「あらすじを読むなっ!」

エロDVDは加瀨に取り上げられた。なんだよそれ~期待させやがって。

「もう何だよ~もっとすごい愛の欠片が隠されてるんじゃないかと期待したぁ!」

「これ以上すごいのって何だよっ。俺には大分、大ダメージだけどなっ!」

「オフィスラブものでしょう?普通じゃない…。」

加瀨の目が怪しく光った…気がした。

「普通じゃないぞ~ものすごくエロイんだぁ~普段素っ気ない…あ~ゴホン。」

力説仕掛けた加瀨は咳払いをして会話を終了させた。そしてさり気なく、本当にさり気なくエロDVDを下着と一緒にボストンバッグに入れた。

私達はそれからお互いに無言のまま普段使いのマグカップやら、お箸…そして掛け布団や枕などを持つと、車に積み込んだ。

加瀨は別に機嫌が悪そうではない、が話し掛けるタイミングを掴めない。

そうこうしている間に、気まずいまま我が家に帰って来てしまった。

荷物を運び入れて加瀨の部屋に一緒に入る。この部屋も作り付けのクローゼットはあるが、他の家具類は一切無い。

因みにエアコンは各部屋に設置されている。床暖房もある。

「夜、寒くない?ベッドは無いけど、予備の毛布はあるよ?」

私がそう聞くと加瀨はちょっと目を見開いた後

「貸してもらえる?」

と、少し微笑んだ。よしよし、気まずいのは嫌だものね。

私は自分の部屋のクローゼットから、来客用に置いてある毛布を加瀨の部屋に運び入れた。

「今日は豆乳鍋するね。」

毛布を加瀨に渡しながらそう伝えると加瀨は嬉しそうに微笑んだ。

夕食は豆乳鍋と里芋の煮物、豆乳鍋に入れた鶏団子の残りを使った、鶏団子の甘酢あえ、加瀨にリクエストを聞いて、晩酌は日本酒を出してみた。

「本日の日本酒は大分の地酒です。」

「おおっ!」

私はそれほど飲まないが、居酒屋でたまたま飲んだ地酒が美味しくて取り寄せしていたのだ。どうせなら飲める人に美味しく飲んで貰いたいしね。

加瀨は鍋と料理に目を輝かせている。

「鍋美味い!里芋も美味い!鶏団子も美味い」

いや〜こんなに喜んで貰えると作りがいがあるわ。

「鍋のスープは即席だからさ〜。最近は便利だね。」

「でも、1人鍋より全然美味しいよ。」

加瀨様ニッコニコだ。

具材が大分減ってきた所へ鍋の締めにラーメンの麺を投入すると加瀨は益々喜んで見悶えている。

「はぁ〜いいわ。やべぇお腹も心も温かい…。」

何気に名言を語りつつ、食後に日本茶をすすっている。イケメン彼氏(偽装)。

そんな加瀨に私は気になっていたことを頼んでみた。

「加瀨。」

加瀨は、何度か瞬きをした後に

「何?」

と聞いてきた。

「さっきの『オフィスは淫らに燃え盛るクールツンデレ同僚を突っ込みまくりの蜜残業』を見てみたい。」

加瀨は私がそう言うと若干白目を剥いていた。

良いじゃないか、正直興味はあるけれど、レンタルショップでソレ系の作品を借りる勇気はない。

私の前の彼氏はそんなことを聞ける雰囲気じゃなかったし、これは絶好の機会だ。

彼氏(偽装)が所持してるんだから、是非ともどんな作品なのかを確認したい。

暫く、押し問答をしたけど加瀨が折れてくれた。食後の片付けを終えた後、リビングの55型の大型テレビで見ることにした。

そしてソワソワしながらディスクをレコーダーのトレイに置いてから気がついた。

あれ?こういうのは部屋でコソコソ見るのが普通じゃなかったっけ?

うっかりしていた。

大画面で繰り広げられる、アレやソレ。

最初は集中して見ていたけれど、結構唐突に始まるんだな〜とか、いやいやそんな展開ある?とか、画面にツッコミを入れていたら冷静になってきた。

画面の中は結構な佳境だ。私は無の表情をしていたようだ。

「相笠…まだ見るの?」

と加瀨がおずおずと顔を覗き込んで聞いてきた。

よく考えたらソファに男女(偽装恋人)が並んで観賞するものではないな。ひょっとしたら加瀨は今、猛烈に照れ臭いのではないか?

そう想い至ると、途端に申し訳ない気持ちが膨れ上がってきた。

「ごめんね、加瀨に折角見せて貰って言うのもアレだけど、クールツンデレの良さが私には分からんわ。」

と、多分真顔だと思う表情を向けて答えたら、加瀨はまた若干白目を剥いていた。

「無自覚怖ぇ…。」

意味が分からない…。

エロDVDは佳境だったけれど、加瀨は再生を止めるとケースに戻してしまった。

「最後まで見ないの?」

「見たところで、どうも出来ない。」

よく分からない。

加瀨はDVDを手に持つと、足早に部屋に戻った…と思ったらまたリビングを顔を出した。

「あ、それと一応彼氏だから俺の事、拓海って呼ぶようにしろよ。その方がお母さん達に変に勘繰られなくていいだろ?」

「あ…はい。そうだね〜じゃあ私の事は千夏って呼んでね、拓海。」

加瀨…今日から拓海は自分で呼べと言ったくせに驚いた顔で私を見た。

「無自覚怖ええぇっ…。」

だからさっきからそれ何だよ?!
< 13 / 25 >

この作品をシェア

pagetop