イケメンの恋愛観察日記
お昼休み、川上さんと後輩の女子2人と食堂に向かった。お昼が近づくにつれて笑いが止まらない。
拓海、お弁当喜んでくれるかな〜!海苔の飾り切り頑張ったもんな〜。
拓海のお弁当はご飯とおかずに分けた二段重だ。そしてご飯の蓋を開けると海苔で『ヨシカワ』と字を描き、周りにハートに切り取った海苔を配置した。グフフ。
そしておかずの方には唐揚げやきんぴらごぼう等を入れつつ…チーズオムレツの上に『LOVE』の文字をケチャップで描いておいた。
ご飯とおかずを合わせて『ヨシカワLOVE』だ!どうだ!
食堂に入って拓海の姿を捜すが、いないのか?
なんだ…嬉しさと気恥ずかしさで悶えるイケメン拓海様の姿を見たかったな。
お弁当を広げて皆で食べ始めた。
「いつ見ても相笠さんのお弁当美味しそうね。」
「それ、オムレツですか?」
「うん、チーズ入りオムレツ。」
「わあっ!ご飯の上にハートマークが海苔で作ってる!映えるね!」
皆にお弁当箱を覗き込まれる。飾り切りで残った海苔も有効活用だ。
うんうん、味も美味しい。女子達の可愛い恋愛の話を聞きつつ、このお店が〜新作のあれが〜とか色々話しを聞いてお昼休憩は終わった。
私達が経理部のフロアに戻ってくると、おや?経理部の扉の前に女性が3人いるよ。
あれ?あのメンバー…。女子達がこちらを見た。ん?3人が足早に近づいてくる。
「ちょっと相笠さん、あなた、加瀨…拓海と付き合っているって本当なの?」
やっぱり?!この3人、加瀨 拓海の社内での歴代彼女達じゃないか?!
因みに
拓海本人から、この方々と付き合っている時に具体的に誰と付き合っているとは聞いたことはない。
全ては口の軽い彼女達からの自己発信だ。そして数ヶ月ですぐに別れたとのことも彼女達の自己発信で知らされる、社内の人間の周知の事実だった。
それが社内恋愛の彼女達3人共、ほぼ同じような過程を経て破局になっており、拓海はそれからのお付き合いは社外の人にしているようだ…私の知る限りでは。
更にこの彼女達は必ず一度は私を牽制しに来ている。
「私が加瀨 拓海の彼女よ?!」
「知ってます。」
そしてすぐ別れる…。何だかなぁ。
私は経理部の前の廊下で過去カノ達が揃っているこの状況に首を傾げていた、しかも…
私と加瀨 拓海が付き合っている?
昨日決まったお付き合い(偽装)が何故次の日にバレているのだ?
「それ誰が言ってたんです?」
「拓海本人よ!」
私は絶句した。……あいつイケメンのくせにペラペラ喋ってっ何をやってるんだ!
「どういうつもりよ?あなたと付き合うなんてっ…。」
「拓海があなたとなんて…!」
「厚かましいっ!」
私は冷静になった。この女達は何を言っているのだろうか?
「あの、失礼ですが皆さんは加瀨 拓海とまだお付き合いされているのでしょうか?」
元カノ達は言い淀んだ。
「それは…だけどっ…た、拓海はあなたと付き合うなんてっ…。」
「そうよ!拓海は営業の次期課長候補でっ…。」
それと、個人的な付き合いの何が関係あるのだろうか…。
「加瀨がそう言っていたのですか?」
「え?」
元カノ達は固まった。
「加瀨本人が『私では釣り合わない、私では厚かましい、私とは遊びだ』と言っていたとしたら、彼は裏でこそこそ言わないで私に直接言うと思います。」
私は3人をぐるりと見回した。
「そうよ。元カノだからって相笠さんに付き合いヤメロなんて言う権利あるのかな!」
1つ下の堀田さんが私の前にグイッと出るとそう言った。すると川上さんが
「加瀨さん呼んで来て確認すればいいんじゃない?」
と、とんでもない打開案を示してきた。皆に急かされて拓海に、ちょっと来いや!メッセージを送る。
すると、拓海はニコニコしながら吞気に現れた…現れたよっ?!こっちの身にもなれってんだ!
「何だ?」
私は顎でしゃくって拓海に例の3人を指し示した。
「彼女達が聞きたいことがあるんだって。」
「何?」
拓海は元カノ達が勢揃いしているのに気が付いたのか、怪訝な顔をした。
元カノを代表して御年30…を越えられた、子持ちの既婚者(元カノ1号)が話しを切り出した。
「あ、相笠さんと付き合ってる…って。」
「そうだよ。」
あっさり…バッサリ…。若干隠そうかな?としていた自分が恥ずかしくなる?ほどのあっさり告白だ。
「なん…で?」
元カノ2号が震え声で聞いた。
「だってずっと好きだったから。」
ペロンと軽く返答する、彼氏さん。すごいね、狼狽えたりしないし堂々としたもんだ。偽装彼氏だけど…。
「どうしてっ相笠さんなの?」
元カノ3号が私を指差した。こらこら?先輩を指差すんじゃないよ?
「だってずっと結婚したいって思ってたのは千夏だから。」
川上さんや堀田さん達からきゃああ!と可愛い悲鳴が上がる。
華麗に嘘を重ねる、偽装彼氏&未来の旦那に私は目眩がした。