イケメンの恋愛観察日記
婚約者の観察

結局元カノ3人はそのまま退散して行った。そもそも論だけど、あの人達何しに来たの?

元カノだしおまけに元カノ1号はすでに既婚者、2号に至っては来月寿退社が決まっている。何故今更、拓海の恋愛事情に絡もうとしてくるんだろう。

う~ん、嫉妬?独占欲?自分がかつて好きだった人には、永遠に独りで居ろよ!と言うのか?自分は結婚しているのにね?それもおかしなもんだ。

奥が深い…。

「ごめんな~食堂でさ、弁当食べてたら周りにいたやつらに冷やかされて~。」

と拓海が話し出したことで物思いから意識を浮上させた。

「冷やかされた?」

はっ!そうだ…『ヨシカワLOVE』の文字はどうだったんだろう?拓海、嬉しかった?

すると、拓海は顔を真っ赤にすると私の背中をバシンッと叩いた。

「イダっ!何だよもうぅ…。」

「海苔をハサミで切ってたアレ…弁当開けたら『カセLOVE』なんてっ!おいっ…めっちゃ冷やかされただろぅ…う、嬉しかったけど。」

くわーーーっ拓海の嬉しくて悶えるイケメン顔頂きましたーーー!

そうじゃねぇ…何だって?『カセLOVE』?どういう事だよ…

「海苔の飾り切りご飯の上に置いてたよね?」

「ん…?ああ、そう言えばご飯の入ってた弁当箱の蓋に海苔がいっぱい、くっ付いてたかな?」

やっちゃった…せっかくの海苔の飾り切りの『ヨシカワ』の部分が偶然にも『カセ』になっていたなんて、これじゃあまるで私から愛の告白じゃないかーーなんで蓋を閉める前に海苔の確認しなかったんだぁーー私の馬鹿ッ!

「ねえねえ相笠さん、お弁当加瀨さんの分も作ってたの?」

「加瀨ラブゥ?!すごいですね!」

「結婚ですかぁ?!」

川上さんと堀田さん市川さんの女子に囲まれる。たっ拓海!てめぇ皆の前で何故言うんだ!

その日一日で、社内中に『加瀨&相笠結婚へ』の熱愛発覚の情報が広がった…。

今日は拓海は残業らしい。1人スーパーに寄って買い物をしていると貴明お兄様からメッセージが届いた。

『加瀨君、いい奴だった。改めて挨拶に来るように。見合い相手にも事情を話して断っておいた。』

そう言えばドタバタしていてお見合いのことを完全に忘れていた。孝明兄に謝罪して、宜しくとメッセージを送っておいた。

夜、8時過ぎに戻って来た拓海を私は玄関先で出迎えた。私、ちょっと怒ってますよ?

「何でお弁当の件で迂闊にも私の名前を出すのよ?」

「何でって弁当開けたらオムレツを嘉川に見られてさ~。」

嘉川に見られたのかっ?!それは…辛いっ。

「そしたら海苔の飾りも見られて、彼女の弁当か?って周りにいた営業のやつらにも聞かれたから普通に千夏に作ってもらったって言った。」

本当にペロンと言っちゃったのね。偽装なのに…。

「そんな大々的に私の存在をバラしちゃって困らない?」

「どうしてだよ?結婚するのに?」

「……。」

本日の夕食はお蕎麦にした。そして出汁で甘めに炊いた油揚げと野菜のかき揚げ天麩羅をトッピングとして用意した。

「蕎麦に乗せるもよし、二種類乗せでもいいし、天麩羅はそのまま食べてもいいよ。」

拓海は顔を輝かせた。

「ご飯も食べたい。」

「よし、そう言うと思ったのでご飯はキノコたっぷりの炊き込みご飯だ。」

拓海はまた天井の方を向いてブツブツ呟いている。御祈りでもささげているのかな?

拓海は揚げとかき揚げを蕎麦に両方投入していた。炊き込みご飯もモリモリ食べている。小さい子供みたい、可愛いね。

「結婚までに引っ越し全部済ませてもいい?」

「へ?ああ、うん。勿論いいよ?」

「今日のお弁当美味しかったですぅ…。」

「うん?お粗末様…。」

拓海は話しながら、声を詰まらせてきた。

「マーケティング部の残業で結構夜遅い事も多いから、先に寝ててもいいからっ…。」

「うん…分かった。おかずは温めて食べれる物にしておくね。」

「お昼にお弁当食べられなくても残業中に絶対食べるからぁ…。」

「うん、拓海…イケメンなのに鼻水垂れてるよ…七味唐辛子かけ過ぎじゃない?世の女子達、幻滅もんだよ…。」

「うん…ズビーッ…ズルッ…俺ぁ幸せだっ!」

……拓海さ今日、夕方雨が降ってたからどこかの道の濡れた所で足が滑って地面に頭ぶつけたの?

××月××日(月)

お弁当の海苔の飾り切りはご飯の上の海苔が蓋の裏にくっ付いてしまって失敗した。

嘉川本人に弁当を覗き込まれる危険性もあることに気が付いた。拓海の想いは秘めたるモノ…。私がその想いに寄り添ってあげなくちゃね。

そうだ、アルファベットの形の冷凍ポテトフライあるよね?今度は『YOSHIKAWA LOVE』のアルファベット形だけのポテトを揚げて拓海に出してあげよう。
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