イケメンの恋愛観察日記
暖かい…。身長差があるから私の体がすっぽり拓海の体に包まれている。
「拓海…?」
「……。」
暫く拓海は私の体を抱き締めていたけど
「千夏、酒臭ぇ~。」
と笑いながら私の体を解放してくれた。
「ちょっと!乙女に向かってぇ酒臭いってぇ?」
「ほらほら~乙女ならしっかり歩け!」
拓海に腰を支えられて、何だか拓海に怒鳴っていたのは憶えている。家に帰って乙女だから~とか怒りながらお風呂に入っていたのも憶えている。
朝、眩しくて目が覚めた。あ…薄いレースのカーテンしか部屋にないから眩しいんだ…?
あれ?昨日私どうしてたっけ? ゆっくり体を起こした。
「それがどうして拓海さんの部屋で寝ているのだ…ええ?!拓海の部屋ぁ?!」
因みに私が今、居るのは拓海の部屋だけど、部屋の主はいない。
キョロキョロしていると枕元に自分のスマホがあり、拓海からメッセージが入っていて『走って来る』とあった。
朝6時12分…。あいつは何者だ?いや、会社の同僚で偽彼氏で偽婚約者で偽旦那になる予定の人だけど。
のっそりと拓海の布団から這い出ると、急いで隣の自分の部屋に戻り、仕事用の服を着替えた。
そう言えば、まさか拓海と私…一線を越えたの?
んん?
自分の体の様子を見てもそんな感じはない。当たり前だ、私は偽物だ。そんなことにはならない…はずだ。
取り敢えず落ち着こう。
朝食の準備をした。大和芋を下ろし、出汁で溶いた。鰺の開きをグリルで焼き、お弁当用に鮭もついでに焼く。だし巻き、豚しゃぶしゃぶも作って置いて…ポン酢タレとゴマダレを調合していると拓海が帰って来た。
「おはよ~。」
「おはよ、昨日ゴメンね…えっとお布団占領しちゃって…。」
拓海は汗を拭きながらキッチンに入ってくるとニヤニヤしている。
「お~まあいいけどさ。お前、ホント外飲みは気を付けろよ。寝るまでウダウダ騒いで、俺の布団に入ってくるしさ~。」
「!」
とんでもないセクハラじゃないか!いやそれを通り越して犯罪だよっ?!
「た…た、拓海に無体な事をしちゃったの?!」
「いやいやどう考えても俺の方が腕力も体力もあるから、防げっから!こっちは嬉しいけど~?」
「何?何だって?」
丁度お鍋が沸いたので、そっちに意識が向いて拓海が話したことを聞き逃していた。
拓海は口を尖らすと、別にいいよ〜と顔を真っ赤にして部屋に戻って行った。
そして拓海はイケメン営業さんに変身して戻って来た。
「朝御飯〜おおっ山掛け丼?」
「大和芋だよ〜好みで増量してもらえるようにおかわりは自由です!お好みで生卵とワサビ、きざみ海苔どうぞー!」
拓海はうんうんと頷きながら、丼を食べている。鯵の開きも食べている。
「これ山掛け蕎麦にしたい〜。」
「いいね、今度しよっか。」
本当、普通の新婚さんみたいだね。全然ケンカも無いし、気心知れてるからお互いのタイミングでのんびりと生活出来てる。
そして週末になった。
今日は明日、拓海の実家にご挨拶にお伺いする時に持って行くお土産を買いに来た。
「お母さん、何が好きなの?」
「ん?んん~?レバーが嫌いなのは知っている。」
これだから男の子って…うちの義兄達もきっとお母様の好物なんて知らない。
「洋菓子ならクッキー、和菓子ならお煎餅。無難だけど間違いない!」
拓海と一緒に某デパートに行ってお土産を選ぶことにした。いやいや~お菓子売り場は目移りするね~。…んっ?!
「何ぃ?期間限定?ええっ日本初出店?!…ん?NY発?!」
「……クッキーか煎餅にするんだろう?」
拓海が腕を組んで私を見ている。私はそんな拓海をキッと睨んだ。
「今、並んだお店の列は言わば視察だよっ視察!今後の参考の為に列に並んでるのっ!クッキーや煎餅の店は逃げないけど、限定は売り切れる心配があるから…。」
「……はっきり言えよ。食べたいんだろ?」
私はNY発!日本初出店!最後尾こちら!と書かれたプラカードを持ったお姉さんが居る最後尾に並んだ場所からちょっと遠くにいる拓海に向かって頭を下げた。
「ハイ、タベタイデス。」
拓海は溜め息をつきながら近づいて来ると、一緒に列に並んでくれた。プラカードを持ったお姉さんや私の前に居る女性2人組が小さく悲鳴をあげている。
「これは今日食べるだろ?生ものっぽいし…あ、そうだ。日曜なら三鶴やあいつらが居るかも?お土産はクッキーの方がいいかな。」
「ミツカ?」
「漢字の三に鳥の鶴で、三鶴。24の妹。それに弟と妹と兄貴がいる。兄貴は結婚して家出てる。妹と弟は高校生。」
「5人兄弟!」
「千夏の兄さん達よりはインパクトは薄いけど。」
「それどういう意味だよ。」
「だって2人共、俺にメッセージ送ってくるよ?恋人差し置いてお兄さん達の方が飲みに行こうとか誘って来るなんて、千夏よりマメだよな?」
なにやってんだぁぁ~あのボケ義兄達はぁ?!