イケメンの恋愛観察日記
「あ…今のはえっと兄なの。2人、兄がいて…。」
「へえ…そうなんだ。」
一気に酔いが覚めたよ。そうだった明日、お見合いだった。
「お前ん家どこ?タクシー呼ぼう。」
加瀨がスマホを操作し出したので私は慌てて
「いや、電車一本で帰れるし駅から家近いし…。」
そう言うと加瀨は
「んじゃ、電車か?まだ終電あるな、家まで送るよ。」
と言って来た。何が何でも家まで送ってくれるようだ。いやいやあの…。
「だ、大丈夫だよ!電車乗ったらすぐだし…。」
加瀨の目が鋭くなる。
「なんか頑なだな…何で家バレがやなの?俺が知って何かするとか思ってるの?」
「そうじゃないしっえ…とドン引きするといいますか…。」
加瀨は私の手を掴んだ。うわっとっ…!
「グダグダ言うな。どんなボロアパートでも気にすんな。」
イヤ、ボロい方のドン引きじゃないんだけど…。
加瀨と電車に乗りました。我が家は駅から歩いて2分の好立地です。
「こちらで御座います。」
と、手で指し示した時に気がついた。加瀨をドン引きさせるであろうホテルのような外装のマンションの門扉の前に……元義兄の2人が居た。
「あ…え…どうしよう。」
「どうしたんだ?」
加瀨がそう聞いてきたと同時に元、義兄達が叫んだ。
「千夏!お前…明日お見合いだっていうのに飲んで…!」
「千夏…?その男誰だ?」
ひやぁぁ…ちょっと何これどういうことだ?
兄達はずんずんと歩いて来ると、私と加瀨の前で止まった。
加瀨が低い声で
「明日…お見合い?」
と呟いている。右隣と前に立つ男達が怖い。何だか怖い、色々怖い。
貴明兄様がジロッと加瀨を睨んだ。
「君は誰だ?」
私はアワアワしながら
「上の兄の貴明。」
と貴明兄様を紹介した。加瀨は綺麗な45度のお辞儀をすると
「千夏さんの同僚の加瀨と申します。」
と自己紹介をした。
すると貴司兄様が余計なことを言い出した。
「こんな夜遅くまで飲みに連れ回すなんて、どういうことかな?千夏は嫁入り前だよ?」
おいっ!どこの昭和のおっさんだよ!私、もう27歳だよ?嫁入り前じゃなくても十分、お局の域だからっ!
「はい、千夏さんに大事がないよう守っています。節度あるお付き合いをさせて頂いております。」
セツドアルオツキアイ?
ギギギ…と加瀨の方にも首を向けようとして、加瀨に肩を抱かれて引き寄せられた。
「俺と付き合っているのにお見合いするなんてびっくりですね、アハハ…。」
イヤ本当びっくりだね。いつどこで私と加瀨が付き合ってたんだろうねー、アハハ。
「千夏…。」
「お前…。」
兄達が茫然とした様子で呟いている。
私が加瀨を見上げると加瀨は私を見詰めてきた。至近距離で見ていると端正な顔がちょっと近づいてきた。
「後で話しがしたい。」
あ……これ。もしかして?
「貴明兄様、貴司兄様、明日のお見合いには行きません。」
私は加瀨の手を掴むと駆け出した。急いで門扉の中に駆け込むと振り返って、茫然と立ち尽くす兄様達に叫んだ。
「お母様に伝えておいて下さい!」
入口の玄関ドアのロックを開けると、エントランスに入った。
「お帰りなさいませ、相笠様。」
「ただいま戻りました。」
受付のコンシェルジュの女性に頭を下げてから、エレベーターの前に移動した。
「びっくりだ。」
「驚かせてゴメン。」
加瀨を見上げるとエントランスを見たり、廊下を見たりキョロキョロしている。
エレベーターが来たので乗り込むと、8を押した。
「最上階…。」
「そうです。」
ほら見ろ加瀨、ドン引きだろう?
歴代の…2人しか付き合ったことないけど、最初の彼氏には金をタカられ…その次の彼氏はヒモになっていいか?と言われて、断るとストーカー化した。
参ったな…。加瀨とこんな感じで家バレしたくなかったな…。
ポーン…。
音がして8階で降りた。
「えっ?何これ?」
エレベーターから降りて加瀨は挙動不審になっていた。
それもそのはず
8階のエレベーターを降りると直ぐに玄関ポーチがある。門扉の鍵を開けて、指紋認証つきのオートロックの玄関ドアを、開けた。
玄関を開けてから加瀨の方を振り向いた。
「ワンフロア、全部私の家なの。」
ガシャン…と音をたてて加瀨は門扉を開けて中に入って来ると、玄関先でいきなり壁ドンを私にしてきた。
何事なの?
××月××日(土)
追記
加瀨に色々とバレた。しかしアレだ。イケメンだからか、うちの家の玄関先に立っているだけでも王子様みたいな雰囲気を醸し出していた。
私みたいなチンチクリンじゃ壁の大理石の無駄遣いになっていたが、ここに引っ越して来て約10年…イケメン壁ドンにより、豪華な大理石が始めて生かされた瞬間を目撃出来た。