沈黙の歌姫
別に行きたくもないトイレから出て海音の姿を探すと
さっきの2人の女子高生と…海音が話している姿が見えた。
ふいにこっちを向いた海音と目が合って、私は逃げ出した。
『結歌っ!』
後ろから海音の声が聞こえるけど、振り返らないでひたすら走る。
ファッションビルを飛び出して、人混みの中走り抜けて、駅の入口の近くで足を止めた。
振り返っても海音の姿はないし、声も聞こえない。
やっぱり、あの子たちの方が良かったんだ。
もう帰ろう。
そう思って、駅に向かおうとしたけれどもう私に帰るところはないんだって気がついたら
自然と涙が溢れてきた。
2ヶ月半前まではそれが当たり前で、そんなことで泣いたりしなかったのに。
一時でも、同情だったとしても、優しさに触れて、私は弱くなってしまったみたいだ。
こんなことなら出会わなければ良かった。