沈黙の歌姫
もうとっくに熱が奪われた冷たい砂浜に座って、2人並んで海を眺める。


2ヶ月半前のように


潮の香りをまとった冷たい夜風が吹き抜ける


火照った顔を冷ますのにはちょうどいい。




『迅竜(じんりゅう)って言う族が暴れだしたらしいんだ。』


しばらく静かに海を眺めていたが、海音が突然そう話し始めた


『まだ細かいことは分からないけど、姑息な手段で他の族を潰して吸収してるらしい。』


初めて海音の口から他の暴走族の話を聞いて


私には想像もつかなかった。


「だから、今まで以上に気をつけて。1人にはならないように。」


迅竜…姑息な手段…。


私はまだまだこの世界を知らないんだと思った。



「そんなに怯えた顔しないで。何があっても俺が守るから。」






“俺が守るから。”






ことある事にそういう海音。

でもその表情は、悲しみの色を隠すかのように、偽りの強さが貼り付けられていた。
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