沈黙の歌姫
その偽りの姿を削ぎ落として欲しくて、
時折見せる悲しみの色を塗り変えたくて
海音の頭を撫でてあげた。
出会った日に海音がしてくれたみたいに。
「結歌?」
【そんなに思い詰めた顔しないで。何があっても私はいなくならないから。】
『結歌には敵わねーな。』
そう言いながら夜空を仰ぐ海音。
『俺、妹がいたんだ。』
と、ポツリと呟いた。
「いる」ではなく、「いた」
たった1文字の違いが、海音が抱えるものの大きさを暗示した。
『4歳差で、名前は音春(おとは)。たぶん、かなり仲のいい兄妹だったと思う。』
懐かしそうに少し目を細めている
『でも、俺が小6のとき音波は道路に飛び出して自殺した。俺のせいで。』
“自殺”思いがけない言葉に動揺を隠せなかった。