沈黙の歌姫
『「ごめんね。」それが音春の最後の言葉だった。


音春はその日の晩に家を出て、トラックの前に飛び出した。即死だったらしい。


あとから音春の机の中から手紙を見つけたんだ。小学二年生なりの遺書みたいなものだったんだと思う。

ごめんなさいばっかりの拙い手紙に書いてあった。最後のお願いだから、お兄ちゃんに優しくしてあげて欲しいって


俺は音春にあたって、追い詰めたのに、あいつは最後まで優しかった。


俺が音春を殺した。言葉の凶器で刺したんだよ。』





初めて会った時既視感を感じた彼の瞳。


やっと思い出した。

お母さんのお葬式のときの、お父さんの瞳と同じだって。


海音のせいじゃない。


そう思ったけど、今かけるべき言葉はそんなありきたりなものじゃなくて。


海音の手をそっと握った。

1度私の顔を見た海音は、苦しそうに笑った。
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