沈黙の歌姫
それからすぐにお店を出て、柚斗はマンションまで送ってくれた。
「今日はありがとう。」
“こちらこそ、ありがとう!”
「結歌に話してなんかスッキリしたわ。じゃあまたな。」
エレベーターに乗るまで見守ってくれていた柚斗と別れて
部屋に入っても海音はまだ帰ってなくて、
耳鳴りじゃないけど、耳の奥でピーーっと音が聞こえてくるほど静かな部屋。
こんなとき、お父さんが酔いつぶれたあとの静かな時間を思い出す。
お父さん、どうしてるかな。
こうやって思うようになったのも海音のおかげ。
でもまだ、会いに行こうという勇気は出ない。
沈黙を打ち消すためにテレビをつけた。
夜ご飯を作って、お風呂に入る…
何となく見続けているドラマを見て
少しだけ勉強する。
時計はもう10:38を指して、1人でご飯を食べる。
もう一人分ラップをして冷蔵庫にしまってから、歯を磨いてベットに入った。
こんな日も珍しくない。オオカミのぬいぐるみを抱きしめて、眠りについた。