沈黙の歌姫
こんなことして、ふと思った。
狼義の総長になって俺はかなり有名になってしまったから、もしかしたら結歌も知っているかもしれない。
暴走族ってことに怯えてるかもしれない。
『つうか俺の事知ってる?』
今度は首を横に振った。
ほっとしたと同時に、知られていなかったことに少し寂しさを感じてしまった。
『もう遅いから帰るぞ。送る。』
この辺は狼義の倉庫の近くだからそんなに危険はないと思うけど、この暗い中こんなに弱った女の子の1人で帰すわけには行かないから、そう言った。
それに対して彼女はまた横に首を振った。
『こんな時間に女を1人で帰らせられるかよ』
そう言って少し早歩きで歩き出す。
またまたぶっきらぼうで強引な言い方になってしまったが、こうでもしないと送らせてもらえないだろう。
案の定、結歌は諦めたようで後ろから小走りで追いかけてきた。
隣に並んだのでペースを落としてゆっくり歩いた。