触りたい、縛りたい、愛したい  〜例え許されない恋だとしても〜




「明日から本当に行っちゃうんだね…」




「寂しい?」




「当たり前だろ」




「可愛いね……おいで」




そう言って両手を広げる奈那はこの上ない優しい笑顔。
そっと包まれる温もり……明日からは当分お預けだ。
泣きそうな顔してるのバレてギュッと抱きしめられた。




柔らかい胸に顔が埋まる。
髪を撫でながら何度も名前を呼んで
「好きだよ」と額にキスを落としてくれる。
顔を上げて唇を軽く突き出す。
欲しいのはそこじゃない。




「ここにしてほしいの?」




親指で唇をなぞる仕草。
わかってるくせにいつもの焦らし作戦。
それが好きで仕方ない俺。
頷いたら「可愛い」と小鳥キスを繰り返す。




ねぇ、最終日に巻き髪のツインテールとか反則でしょ。
可愛いのそっちだから。
どんだけ可愛いの。
我慢するのしんどいよ。




「ヒロ……本当に私、ヒロ以外に興味ないから…そこだけは信じてね?」




「うん……俺も同じ気持ちだよ」




「ちゃんとその都度、態度で示すから」




そこまで言ってくれる奈那が愛しくてたまらなくなる……
こっちからキスしても優しく汲み取ってくれてまだ好きが溢れてく……




どれだけ愛し合ってもまた不安は訪れて心を支配していくもの。
だから何度も求めて愛を乞う。
大好き…を繰り返す。
この身も心も全て繋ぎ止めておきたい。




触れ合うこの時間こそが俺にとっては最大の強みだったんだ。
余計なこと考えないで本能のまま向き合える。
その分、一歩離れればもう手の届かない存在になってしまう。




信じろって身体ひとつ離れてしまえば完全に見えなくなるのに。
昨日と今日はまた違う。




両手で頬を包まれて目が合った。




「ヒロ……不安なんだね?不安で仕方ないって顔してる」




思わず俯いた。
涙が込み上がる。




「ごめん……こうなるってわかってたのに…ちゃんと笑顔で見送るはずだったのに…」




「うん……」




「いざその日が来たらどうしたらいいかわかんない…信じ方がわかんないよ」




少し乱れた服のまま奈那は再び抱きしめてくれた。
背中を優しく撫でてもくれた。
この温もりも匂いも明日にはない。
帰って来ない。







< 295 / 409 >

この作品をシェア

pagetop