触りたい、縛りたい、愛したい 〜例え許されない恋だとしても〜
「おはよう、ヒロ」
「お……はよ」
いつもの朝。
制服に身を包み、リビングに集まり皆で朝食。
「おはよう、祐翔くん」とコーヒーカップを置いてくれる涼子さん。
新聞を広げながら「おう」と目だけで挨拶する親父。
奈那の前に座ったら焼けたバタートーストを渡してきて笑顔でVサイン。
「完っ全復活しましたぁ!」
「お、おぅ……良かったな」
笑い合いながらトーストをかじる。
昨日のことなんてまるでなかったかのような2人。
最初は戸惑ってたけど、何かそれもアリなのかなって思えてきた。
勿論、俺はちゃんと覚えていてめちゃくちゃドキドキさせられたけど。
寝て起きたらハイ、リセットってな感じなのかな?
その辺の切り替えスイッチはよくわからんが今は俺もそれに乗っかちゃおうかなって思う。
曖昧な関係を行ったり来たり。
はっきりしたくない……のも少しわかる気がするし。
気持ちを伝えるのは簡単かも知れない。
でも壊れるのなんて一瞬なんだ。
元通りになるのはかなり時間がかかるだろうし不可能だという可能性も。
だから、俺からの駆け引きとかは一切なしの奈那の求める俺を演じてみようかなって。
一旦受け入れてしまえば楽になれる気がした。
多分平穏で過ごせる方が少ないかもだけど、奈那が笑顔を向けてくれるなら後はどうでもいい。
朝一番の笑顔を見てそう思えた。
失いたくないなって。
ちゃんと目を見て話しかけてくれる、
名前を呼んでくれる、
同じ屋根の下に居る………
それだけで充分なんだってさ。
「あ、ヒロ…?テスト終わった次の土曜日暇?」
ボ〜ッと食べてたらそんな声が聞こえてきた。
「ん…?予定はないけど」
「よし、じゃあ一緒に髪切りに行こう!」
「髪…!?ん……そっか、もうそろそろ切らなきゃだよな」