触りたい、縛りたい、愛したい 〜例え許されない恋だとしても〜
「何にもないフリしてるけど心の中はどうかな〜?結構キテると思うんだけどな」
ギュッと俺に抱きついたまま同じ方向を見て言う。
「あの、離れてくれない?」
「名前呼びしてくれたらね?」
「……ひよりちゃん!離して?」
思いのほかちゃんと言えたけど心の壁はむしろ高くなった。
それもきっと桜井さんは勘付いてる。
パッと離れてくれた。
「これくらいでマジになんないでよ、確実に爪痕残してんだからそんな顔しないで?」
「だから免疫ないんだってば……作戦であってもすぐボロが出てしまうからきっと姉貴にはバレてるよ」
ついでに笑われてるかも。
あの2人何してんの?って……
面白いからあまり触れないでいようって。
受験だしそこまで付き合ってられないのかも。
やっぱりただの空回りなんだ。
「ほんっとネガティブだよね?しかもクソ真面目!私を利用出来ないわけ?こんないい食材なんだからちゃんと料理してよ」
「え………あの、言ってる意味が…??」
つい、こんなリアクション取っちゃう。
桜井さんもとうとう諦めついたかな。
こっちから願い下げだって言われるよな。
だって俺は……料理なんかしたことない。
味付けもわからなければ焼くのか、煮るのか、蒸すのかさえわからない。
これほどの高級食材なんか扱ったこともないし俺には手が負えない。
「ちょっと来て!」
今度は手を引かれグイグイ歩き出す。
え?次は何…!?
どこに行くの!?
もうすぐ昼休み終わっちゃうよ……
どんどん人気のない廊下に出て来て勢いよく入ったのは誰も使われてない教室。
ドアを閉めてロッカー側に詰め寄られる。
ま、まさかの……逆壁ドン!?
「あんたがさぁ、私にもう振り向かないのはわかってんの……」
え、ちょっと待って………
薄暗い教室の中だからか、
桜井さんの顔色がよく見えないけど……
一瞬でわかる。
きっと……泣きそうな顔してる。
胸がチクリと痛んだ。
涙は流してないけど今にも崩れそうな表情。