【短】じっとできない
と、そこで聞き慣れた声がする。
「あれ?…朱里亜?今帰り?」
「汰一?もしかして、今まで部活のロードワーク?」
互いに寸分違わずにそう言い合ってから、顔を揃えてぷっと噴き出した。
「あー…朱里亜と一緒にいると、ほんと和むわー」
「はぁ?なにそれ?」
「実はさ、ロードワークから帰ってくる最中に、一年の子達に捕まっちゃって…」
ちくん
それの言葉を聞いた瞬間、小さく痛んだ胸の奥。
だけど、気付かないふりをして、…その意味を謎解く前に…汰一は次の言葉を続ける。
「朱里亜はさ、どう思う?」
「え…?」
「俺が、誰かと付き合うの」
「………」
とうとう、この日が来たかと思いつつも、なんで私にそんなことを聴くのかと汰一の顔をジッと見つめると…。
「ウソウソ。今の冗談聞かなかったことにして?」
と、彼は昇降口から教室の方へと向かってしまう。
途中、振り返って、
「じゃあ、遅いから一緒に帰ろう?」
とだけ言い残して。