僕を壊したのは君だから。
香田さんは静かに私を見ていて、視線の強さにごくりと唾を飲み込んだ。



……なにか、言ってほしい……。


丁寧に巻かれたミルクティの髪。


長いまつげが囲む大きな目は少しきつそうな印象。

澄んだ薄茶色の神秘的な瞳。通った鼻筋に透明感のある白い肌に薄く乗る垢ぬけたメイク。


テレビの向こうにいるレベルの美人さんだ。



私が声をかけていい相手じゃないことを再確認しながら、だらだら流れる汗を拭っていると、


「……いいよ」


って、やっと、声が返ってきた……っ。


……ところで、“どうでもいいよ”って変換されて聞こえてしまうのはなんでだろう。あの表情のせい……?


でも嬉しい。


「ありがとう……」



そのまま席に戻る途中、



乗馬みたいに背もたれを前にして椅子に座る島田くんと目が合い、無邪気な「やったじゃん」って口パクが届いた。


うん、うん。島田くんのおかげ。


大きくうなずいて笑顔は零れるまま。



「ありがとう」と声を出さずに返すと、横からとんでもない視線を感じた。


目を向ければ、なにかいいたげな朝比奈くんが何も言わずに私を見ていて。


……今、睨まれてる?



私はスルーを決め込み、席に着いた。


でも……朝比奈君は、まだこっちを見てる。


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