私たちの春は白
こんな時、人は悪いことではないように祈るのかもしれない。でも私はその何かをずっと待っていたような気がする。ずっと前から探し続けていたんだ。

足が自然と早くなる。走り回って苦しいはずなのに、ちっとも辛くない。そのまま私は目的地へと走る。向かったのは、おばあちゃんが昔住んでいた家の近くにある浜辺。そこにおばあちゃんがいるって思った。

「おばあちゃん!!」

夕焼けが照らす浜辺。海に夕焼けが大きく映っている。その海を、おばあちゃんが一人で眺めていた。

「おばあちゃん!!」

私はもう一度呼ぶ。すると、おばあちゃんはゆっくりと私の方を向いた。その顔には嬉しさと切なさが混じっている。そして、おばあちゃんの唇が動いた。

「……葵ちゃん……」

おばあちゃんがそう言った刹那、時間が全て止まった気がした。目の前で起きていることが夢のようで、でも夢じゃないと私自身が知っている。……おばあちゃんが、私の名前を呼んでくれた。
< 108 / 113 >

この作品をシェア

pagetop