私たちの春は白
「その写真も持って行ってやれよ。おばあちゃんはお前のことが好きだったんだから」

「うん」

お兄ちゃんに言われ、私は荷物の中にそっと写真を入れた。もう荷造りはおしまい。

「でも、葵がいなくなるって思うと少し寂しいかもな」

「お嫁さんが来てこの家に四人で暮らすんでしょ?賑やかじゃない」

そんなことを言いながら荷物を運び出す。一人暮らしは初めてだから、とてもドキドキしてる。でももう子どもじゃないんだし、しっかりしないとね。

私が一階に降りると、「葵」とお父さんとお母さんに呼ばれた。二人とも、とても真剣な顔だ。何だろう?

「何?」

「ちょっとここに座りなさい」

お父さんに言われ、私はリビングの椅子に座る。すると、リボンでラッピングされた細長い箱を渡される。

「これは?」

私が訊ねると、「おばあちゃんからのプレゼントだ。おばあちゃんの部屋に隠してあった」とお父さんが言う。私は驚き、すぐに箱を開けた。桜がモチーフの可愛らしいネックレスが入っている。

「おばあちゃんね、あなたが生まれた時に言っていたの。「この子が独り立ちする時にプレゼントを渡す」って。レシートがあったんだけど、認知症がひどくなってからおばあちゃんはこれを買いに行ったのよ」

「おばあちゃん……」

私の目から涙がこぼれる。私たちの知らないところで、あの浜辺の時の奇跡は起こっていたんだ。涙があふれて、こぼれていって、止めることができない。

「……ありがとう、おばあちゃん……」

福祉の世界を知って、この気持ちと向き合えた。あの奇跡を目の当たりにすることができた。

これから先も、私は福祉の世界で生き続けるのだろう。おばあちゃんやみんなのくれた温もりを胸に詰めて……。
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