私たちの春は白
第二章 大切なこと
朝起きてリビングに行くと、お兄ちゃんがおばあちゃんの着替えを手伝っていた。

「おばあちゃん、ズボンを履こうか」

「はい、次郎さん」

おばあちゃんは、お兄ちゃんのことを若い頃に好きだった人だと思っている。大人しく服を着替えていた。

「あら、おはよう。葵ちゃん」

おばあちゃんは、私にいつものように笑いかける。

「……おはよう」

私はおばあちゃんに無愛想にそう言うと、朝ご飯を食べるために席に着く。私はやっぱり、福祉の仕事なんて考えられない。

その時、お兄ちゃんが言った。

「葵、お前さ福祉コースになったんだろ。着脱の様子、見てみろよ」

「えっ?」

「福祉コースになったら、実技で絶対に習うぞ」

お母さんも、「見せてもらいなさい」と私に言う。私はため息をつきながらも、お兄ちゃんの近くに立つ。正直、めんどくさい。

「服を着せる時は、迎え袖をしないといけないんだ」

お兄ちゃんはズボンを持ち、私に介助の手順を説明し始める。早速わからない単語が出てきた。
< 14 / 113 >

この作品をシェア

pagetop