私たちの春は白
「えっ?マジ?」

そう言いながら海斗が振り向く。私は誤魔化す必要はないと頷いた。

「徘徊とかあるのか?」

海斗と太陽の質問に、私はモヤモヤした気持ちを覚えながら答えていく。私は、おばあちゃんの気持ちを何もわかろうとしないままでーーー。

「葵?大丈夫ですか?」

チェリーが私の顔を覗き込む。詩織たちも心配げな目を私に向けている。

「何でもないよ」

おばあちゃんを知らない空しさ、介護を学ぶ楽しさ、溜まっていく悲しさ。どうしたらいいのかわからない。

「……認知症になって苦しむのは、周りにいる人間だけじゃない。一番苦しむのは、悲しむのは、認知症になった本人なんだよ」

静かに言った颯の言葉が、私の心に傷をつけた。



その日の夜のことだった。

私が自分の部屋でベッドに寝転んでスマホをいじっていると、大きな物音が突然響く。私は驚き、慌てて部屋を飛び出す。

おばあちゃんが、自分の部屋のタンスをひっくり返していた。部屋はまるで、泥棒に入られたような有様だ。

「ない!ない!私の財布がない!」

そう言って財布を探すおばあちゃんに、お母さんが「なら一緒に探しましょう」と声をかけている。これが妄想ってやつなのか。

私は片付けをしようと、床に散乱している荷物に手を伸ばす。

「もう、おばあちゃん!!こんな散らかさないでよ!!」
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