私たちの春は白
伊藤先生に連れられて行ったのは保健室。杉浦先生は、保健室の先生もしているから。
急にやって来た私のことを、杉浦先生は何も言わずに保健室の柔らかい椅子に座らせてくれた。
「それじゃあ、伊藤先生。あとは任せてください」
伊藤先生が出て行き、杉浦先生と二人きりになる。
「何かあった?」
穏やかな声で話しかけられ、私の心は言うべきか揺れる。もう涙は止まっていた。
「……認知症の授業を受けていたんです」
私は、とりあえずさっき起こったことを話してみる。開け放たれた窓の外から、心地よい風が入り込んできた。
「……みんな、昔の認知症介護をひどいと言っていて……。でも、私は授業より別のことしか考えられなかったんです」
「……それって?」
私の体が小刻みに震える。また泣いてしまいそうなのを、何とか堪えていた。
「まあ、無理には言わなくていいよ」
杉浦先生がそう言って笑ってくれたのが、唯一の救いだ。私は、まだ起こった出来事を受け止めきれない。お母さんたちは、忘れられているのに、どうしておばあちゃんに笑いかけることができるんだろう……。