私たちの春は白
お兄ちゃんが私に訊ねる。私は「わからない」と言った。

四月の頃と比べて、介護の授業が楽しいと思うようになったのは事実だ。しかし、それを仕事にしたいとはまだ思っていない。こんな中途半端な気持ちで介護の世界に飛び込む勇気なんて、どこにもない。

「よかったらさ、俺の働いてる施設に実習に来るか?学校では学べないことも学べるかもしれない」

お兄ちゃんの言葉に、「それはいいな。学校と生の現場は違うからな」とお父さんが頷く。

お兄ちゃんが早速話をし、夏休みの五日間、私は高齢者施設で実習をすることが決まった。



実習の日。私はお兄ちゃんの運転する車に乗り、介護老人保健施設へと向かう。私の胸は、ドキドキという音を自分で感じるほど緊張していた。

「お〜い、表情が強張ってるぞ」

苦笑いをするお兄ちゃんに、私は体を震わせる。

「だって!!とても緊張しているんだもん!!」

福祉を学んでいるとはいえ、私はお兄ちゃんみたいなプロじゃない。利用者さんは本物のおじいさんたちだし、不安しかない。
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