私たちの春は白
お兄ちゃんにそう言われながら、エレベーターで二階へ向かう。扉が開いた刹那、目に飛び込んできたのは、私が今まで教科書でしか見たことがない世界だった。

シワだらけのおじいさんたちがたくさんいる。テレビを見ていたり、新聞を読んでいたり、話をしていたり、みんな自由に過ごしている。職員さんたちは忙しそうにあちこち動き回っていた。

「ほら、とりあえず話しかけてみろ」

お兄ちゃんは私の背を軽く押し、どこかへ行ってしまった。私はその場に立ち、利用者さんを見つめる。いや、一体どうしたらいいのかわかんないんだけど!

歳はうんと離れているから、アイドルの話とかはできないだろうし……。食べ物?う〜ん……テレビ番組の話とか?

考え込んでしまって動けない私の手を誰かが触れた。振り向くと、腰の曲がったおばあちゃんがニコニコしてる。

「あんた、誰?」

「あ、えっと……須藤葵です」

ドキドキしながら私は答える。おばあちゃんは笑いながら言った。

「何?誰?」

「す、須藤葵です!」
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