私たちの春は白
私はお父さんからその本を借り、ページをめくる。認知症の人が認知症じゃない人たちに支えられながら、楽しくレストランで働いている。オーダーを聞き間違えたり、違うテーブルに料理を運んでしまっても、レストランの中は穏やかな雰囲気で、不平不満を言う人はいない。

「夏子、風邪を引いてしまうわよ」

頭を乾かさずに本を読み続ける私に、おばあちゃんがシソジュースを飲みながら言う。そうだ、これだ……!

アイデアが一気にあふれていく。私はお父さんに「ありがとう!!」と本を返し、髪を乾かし始めた。



次の日、私の話したアイデアに颯たちは目を丸くした。それは福祉コースで初めて行うこと。前例がなく、失敗に終わるリスクだってある。

「無茶を言ってるのはわかってる。でも、介護の現場をみんなに知ってほしいの」

私がそう言うと、「やってみてもいいんじゃない」と詩織が言った。

「四月にあれだけ福祉が嫌いって言っていた葵が提案したんだもの。福祉を知らない人も興味を持ってくれるんじゃない?」

「私も賛成!!前例がないって何か面白そうだよ!!」
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