お兄ちゃんが芸能人だなんて信じられません!
「僕らのマネージャー。沙那ちゃんに電話かけたって言ってたんだけど······知らない?」

「あ、電話の方ですか。」

「そう。しばらくしたら来ると思うから。安静にしてるんだよ。」

「はい。」



そして最後にフッと柔らかな微笑みを浮かべて部屋を後にする。



扉が閉まっても私の視線は変わらずそこにあって。



短い間に色々なことが起こりすぎて思考停止してしまっている。



「なんだったんだ。さっきの。」



少しだけ冷静さを取り戻した私はわけもなく床の木目を数える。



いーち、にー、さーん、しーい······




─────────バタバタバタバタバタ



邪魔すんなああああ!!!



廊下から聞こえた大きな足音に、完全に集中の糸を切られた。



そこのあなたー、学校だったら怒られてますよー。



なんてツッコミを入れた刹那、大きな音を立てて開かれた扉。



「沙那ちゃーん♡」

「あ」



この人は······イケメンオネエさん?なんでこの人がここに?



「あの、さっき千歳くんから"なっちゃんさん"が来るって聞いたんですけど。」

「私がなっちゃんよ?<ruby>一ノ瀬夏生<rt>いちのせなつき</rt></ruby>で、なっちゃん。」

「で、でも電話の方だって、」



目の前にいるこの人とは明らかに口調や雰囲気が違った。



それくらいはさすがにあの緊張状態の中でも覚えてる。



しばらく頭を悩ませた後「あー、あれねー」と納得したように言葉を続けた。



「あれは仕事用よ!できれば喋りたくないけど、そうもいかないのよねぇ」



ホント困るわ〜、と言って顔を歪ませるイケメン。



あのイケボさんとオネエさんがまさかの同一人物だったとは。
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