お兄ちゃんが芸能人だなんて信じられません!
いくら脳に理解させようとしても、視覚と聴覚が一致しない。



······一旦冷静になろう。切り替え切り替え。



「それで、お話っていうのは?」

「あ〜、そうだったわ。」



ポンっと手を叩いて何かを閃いたかのように言うイケメンおネエ。



大事な話ならそう簡単に忘れないでくれよ。



「病み上がりに言うのも心苦しいんだけど······」

「はい。」



なに、その不吉な予感しかしない前置き。



腹筋か?腹筋でもさせられるのか?



······あれは次の日笑えなくなるから地味にツラい。



紙で指切った時くらいじみ〜な痛み。



「一時間後に二次審査受けに来てちょうだい♡」

「······今日ですか?」

「何回も言わせないで。一時間後よ。今日の。」

「でも、その······何やるかーとか聞かされてませんし!」



一次審査通過者にしか二次審査の詳細は届かない。



ということは、補欠合格だった私には当然届くはずがないわけで。



「そんなの適当にパーッとやってババババっとやれば大丈夫よ。」



擬音だらけで一つも理解できない。



これは私の理解能力が低い訳では無いと思うんだ。



だよね?そうだよね!?



「ということだから、第7スタジオで待ってるわね♡またね〜!」

「ちょ、ちょっと!」



私の言葉に全く耳を貸さず、風のように過ぎ去って行く姿にはもはや清々しささえ感じる。



そして聞こえる爆速の足音。



そこは乙女を貫いてくれ!男の片鱗見えちゃってるよ!!
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