愛することは呼吸みたいだ
街は新年を迎えてどこか浮かれた様子だ。

その中で、私はただ立ち尽くしていた。
目の前で押し黙る彼を、ただただ見つめていた。


にっちもさっちもいかない恋だった。

陳腐な言葉しか思い付かない。
『彼が私を見つけてくれた』
『出会う順番が間違っていた』
愚かだと分かっていても、そう思わずにはいられなかった。
彼に帰る場所がある事は出会った時から知っていた。
彼のせいではない。
私のせいでもない。
この恋が始まったことを悪い事だとは思いたくなかった。

たとえ地獄に落ちたとしても。


「ごめん、変なこと言って」

私は彼に笑いかけた。
上手く笑えている自信はない。

でも、つい五分前まで笑って話していたのだ。
年始はどこも混んでいたとかおせち料理では何が好きだとかそんな他愛のないことを。

お互いの生活に関係があって、どこまでも二人の間には関係のないことを。

街ゆく家族を見てふと「いいなぁ」と口走ってしまったことが、きっと過ちだった。
そんなことを言わなければ、ハッとして押し黙る彼なんて見なくて済んだのに。
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