愛することは呼吸みたいだ
そこにもう彼はいなかった。

彼の立っていた位置に立つと、ここで起きた出来事も彼と過ごした日々も全て夢だったのではないかと思った。
だから、どこに行ったか探す気にはなれなかった。

乱れた呼吸を整えようとしても、息切れしてしまって上手く息が吸い込めなかった。


人を愛することは呼吸みたいだ。

相手からもらったもの全てが身体中を回っていく。
いつか『愛してる』と言った彼の声を思い出す。
じゃあ、絡んだ指の強さは。
彼の唇の感触はまだ残っているけれど、甘い吐息の色や触れた肌の柔らかさはどうだったか。

その全てが冷たい空気のようにとても鋭く突き刺さるのに、自分の中に入ってしまえばすぐに融けていった。
どこからどこまでがあなたにもらったものかなんて分かるはずがなかった。

あなたからもらったものがたとえ愛でなくても、私が吐き出したそれが愛になっていてもおかしくない。
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