愛することは呼吸みたいだ
酸欠でふらふらした頭のまま帰る気にはなれなくて、私は当て所もなく歩いた。

ふと気付くと、目の前に宝石のように輝くイルミネーションが広がっていた。
私はその迫力に思わず目を奪われたが、しばらくして目の前の大きな公園が以前彼と訪れた場所だと気付いた。


仕事で思い悩んでいた時に彼が『元気の出る場所に行こう』と言って手を引いて連れ出してくれた。
それなのに道に迷って、何度も同じ道を通って間違った道を通って、やっとここにたどり着いたのだ。
クリスマスでなくてもイルミネーションが綺麗なんだと彼は言ったけど、もうその時間には終わっていて二人でお腹を抱えて笑った。


大好きだった。


あの時は道に迷いに迷ってたどり着いたからどの道を歩いたかなんて覚えていなかった。
『点』としてしか自分のいる場所を認識できなかった。
いろんな場所を通って、やっと自分のいる場所がどこなのか分かった。

それはこの恋も同じかも知れない。
彼しか見えなかった。
彼しか要らないと思った。
その中で、いろんな道を通った。
あの時、彼を好きにならなければ歩かなかった道をたくさん歩いた。

そして、何度も彼と一緒にいる未来を想像する度に底知れぬ幸福感を感じては、漠然とした不安がやってきて私の心を埋め尽くした。

そうか。

彼が私を選ぶことができなかったように、本当は私も彼を選べなかった。
その可能性は、彼を愛している事実とは別の次元で広がっていく。
だから、こんなにも苦しいのだとやっと気が付いた。


彼が私に見せたかった景色は綺麗だけど、彼と二人で見た景色には敵わない。
そのことを無性に彼に伝えたくなった。
でも、どんな顔をするか想像できなくて、私だけ知っていればいいことなのだと悟った。

私は溢れてくる涙をそのままに、ゆっくりと深呼吸をした。
イルミネーションはどこまでも私を照らしていた。



終わり
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