懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
足音を響かせてやって来た別れ
騒がしいセミの鳴き声が、一瞬のうちにかき消される。
立川里帆は、吸い込んだ空気で喉も胸も焼けつくような気がした。
「黒木副社長と、これでお別れしてください」
並んで座った公園のベンチに分厚い封筒を置き、里帆のほうへ滑らせる。
むせかえるほどの暑さでもブラックスーツにネクタイをきっちりと締めた成島は、顔色ひとつ変えずに里帆をじっと見た。
くっきりとした二重瞼が射抜き、整った顔立ちにそうされ威圧感を覚える。
「これって……」
「手切れ金です」
短いくせに、その威力は絶大。里帆は言葉を失った。
「立川さんもご承知のとおり、副社長は二ヶ月後に社長に就任されます」
副社長である黒木亮介の秘書を務めている里帆は、当然ながら知っている。
< 1 / 277 >