懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
足音を響かせてやって来た別れ


騒がしいセミの鳴き声が、一瞬のうちにかき消される。

立川(たちかわ)里帆(りほ)は、吸い込んだ空気で喉も胸も焼けつくような気がした。


黒木(くろき)副社長と、これでお別れしてください」


並んで座った公園のベンチに分厚い封筒を置き、里帆のほうへ滑らせる。
むせかえるほどの暑さでもブラックスーツにネクタイをきっちりと締めた成島(なるしま)は、顔色ひとつ変えずに里帆をじっと見た。

くっきりとした二重瞼が射抜き、整った顔立ちにそうされ威圧感を覚える。


「これって……」
「手切れ金です」


短いくせに、その威力は絶大。里帆は言葉を失った。


「立川さんもご承知のとおり、副社長は二ヶ月後に社長に就任されます」


副社長である黒木亮介(りょうすけ)の秘書を務めている里帆は、当然ながら知っている。

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