懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
「里帆ちゃん、食パンまだあるかな」
来店早々、常連である四十代の女性が里帆に声をかける。
昼まであと少し。平日の今日は、土日に比べると売れ行きが緩やかだ。とはいえ、午後になればどんどん売り切れが出てくるだろう。
「いらっしゃいませ。はい、まだありますよ」
「あぁよかった。今日はちょっと出遅れたから、もうないかとヒヤヒヤしたわ」
そう言いながら、女性客がトレーとトングを手にする。
「いつもありがとうございます」
「うちの人、みなみさんの食パンじゃないと食べないから」
「わかります。私もここの食パンを知ってからは、ほかのを食べられなくなっちゃいました」
つい話に食いつく。もっちりなのにふわふわした食感はどの食パンとも違い、一度食べたら忘れられないものになる。
「ふふふ。里帆ちゃんもなのね」
「はい」
女性客は四枚切りのものをひとつトレーにのせ、ほかにもくるみパンやオレンジチーズパイを買って、ほくほく顔で帰っていった。