懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
「里帆ちゃん、立っているのがつらかったら座ってもいいんだからね?」
奥から一子が顔を覗かせ、里帆に声をかける。
レジカウンターの隅には里帆がいつでも座れるようにと、幸則がクッション付きの椅子を用意していた。
「ありがとうございます。そのときはそうさせてもらいますので」
店内にお客がいるときは、できるだけ立っていたい。もともと接客が好きなため、それほど苦に感じることもないのだ。
昼休憩を挟み、里帆が店に戻った午後二時過ぎ。
ドアが開く音につられて顔を上げる。
「いらっしゃ――」
言いかけた言葉を飲み込んだ。
なにが起こっているのかわからない。夢でも見ているのかと疑いたくなった。
そこに亮介が立っていたのだ。半年前、さよならの言葉もないままに別れた亮介が。
「里帆……?」
驚きに目を見開いた彼の唇がゆっくりと動く。