懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
亮介が不服そうに顔をしかめるから、慌てて両手を胸の前でひらひら振って訂正する。
覚悟してここへ来たのだから、これで帰るつもりはない。
亮介はふっと表情を崩しながら立ち上がった。
「気にするな。好きでしていることだ。じゃ、俺もシャワー浴びてくるから」
すれ違いざまに里帆の髪をくしゃっと撫で、耳もとに唇を寄せる。
「その隙に逃げたらただじゃおかないよ」
「……逃げませんっ」
ドキッとしつつ返した。
里帆は、これほどなにかをじっと待つのは初めての気がしていた。
黒い革張りのソファの隅にちょこんと座り、なにをするわけでもなく、ただただ亮介を待つ。
早く出てきてほしいような、出てきたら困るような複雑な心境。亮介を待ってマンションの前で待っていたとき以上に、鼓動が速いリズムを刻んでいる。
このまま心臓がパンクしそう……!
ぎゅっと目を閉じたタイミングで、亮介に「里帆」と名前を呼ばれた。