懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
「いえ、なんでもありません」
「なんでもないことはないだろう。答えろ。どういう意味なんだ」
体を立て直して鋭い目を向けると、成島がわずかに目を泳がせる。失態でも犯したような表情だ。
亮介は立ち上がり、成島のもとにゆっくりと歩を進める。獲物を仕留めるような目で彼を射抜いた。
成島の前に立つと、数センチ背の低い彼を見下ろす格好となる。威圧感からか、彼は壁に一歩にじり寄った。
「なにを知ってる」
言い逃れはできないと悟ったか、成島が口を開く。
「彼女は……立川さんは手切れ金を受け取っていません」
「……なに?」
思いがけない言葉が思考をかく乱する。
里帆が、手切れ金を受け取っていない?
予想もしていない成島の告発だった。
「彼女が社長には受け取ったと伝えてほしいと」