懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
「成島、お前が最後に里帆に会ったのか」
「会長のご命令でした。手切れ金を渡して姿をくらませるように指示しろと」
亮介は、父親である隆一が手を下したと思っていたのだ。実際、隆一からもそのように報告されていた。
「どうして今まで黙っていたんだ!」
意図せず大きな声が出る。成島の襟首を掴みかけて思いとどまり、代わりに後ろの壁を拳で殴った。ドンという鈍い音が響く。
成島はわずかに肩を弾ませ、体を硬直させた。
隆一の言葉を真に受け、里帆が愛よりも金をとる女だと考えた自分の浅はかさに反吐が出そうになる。
殴りたかったのは成島ではない。信じきれなかった自分自身だ。
里帆が金をとるような女ではないのは、自分が一番知っていたはずだった。だというのに、目の前に突きつけられた表面的な事実にだけ目を向け、真実を見ようとしなかったのはほかでもなく亮介。裏切られたのではない。亮介が里帆を裏切ったのだ。
壁に押しつけていた手を下ろし、成島に背を向ける。ハンガーにかけていたジャケットを羽織った。